「グミちゃん。」
「はいっ!」

次の朝、マスターに呼び止められた。

「これ。カイトと二人で歌う曲。明日までに音取りね。あとお昼ご飯食べ終わったら今日のグミちゃんの曲やるから。」

あたしは全力で頷いた。そして自分の部屋に戻ると、喉を痛めないように、声を出さずに思いっきりガッツポーズをした。



そして、初のデュエットの顔合わせ。

「がくぽさんっっ!」

あたしはがくぽさんを呼び止めた。

「今、暇!?」
「…あぁ。俺は暇だけど。お前仕事あるんじゃないの?」
「…ついてきてほしいんだけど…」

がくぽさんは目を丸くした。

「はぁっ!?」
「いやなんかだって!緊張するんだもん!がくぽさんの知り合いって感じじゃないと向こうに怪しまれそうでっ…それにほら顔合わせと打ち合わせだから!歌わないから!だからついてきても変じゃないしっ!」

がくぽさんはやれやれ、というようにため息をついた。

「まぁいいけどさ。ったく俺もなんでこいつにこんなに甘いかねぇ…」
「ありがとうっ!」

そしてあたしとがくぽさんは顔合わせの場所へ向かった。



ついたときにはカイトさんはすでにいて、あたしとがくぽさんを見て笑った。

「がっくん!と、グミちゃんだよね?こんにちは。」
「…がくぽ、お前はいつからこの曲を歌う予定になったんだ?」

マスターに冷静に突っ込まれ、あたしは言葉を一瞬失った。…特に何も考えていなかった。そこをがくぽさんがフォローする。

「こいつまた道に迷ってて。第二会議室どこーなんて聞いてくるから、もう説明すんのめんどくさくて連れてきたんですよ。」

がくぽさんナイス!ありがとう!と内心で大感謝する。これはもう、今度マニキュアを塗ってあげるだけじゃお返しが済まないだろう。

「あー、そういえばグミちゃん方向音痴だもんね…」

マスターがぽつりと呟く。あたしは赤面して首を横に振った。

「違いますっ!ただちょっとわかんなくなっちゃうだけでっ!」

がくぽさんは苦笑いした。

「それを方向音痴って呼ぶんだろ。ほら、もう着いたんだから部屋の中、入りなさい?」

背中を軽く押され、あたしは中に入って行った。



「はい。それじゃ、これ。初めての二人のデュエット曲だよね。大体歌詞と曲には目、通した?」

あたしとカイトさんは頷く。
この曲は、…あたしにぴったりな曲だった。マスターの作曲と作詞の上手さには毎回驚かされる。よく一晩でこれだけのいい曲を作れるものだ。

「なんかかわいらしい歌だね、マスター。マスターの脳内って実はこんななの?」

カイトさんがのんきに呟く。あぁ、なんか、こんな馬鹿っぽいシーンでさえも、やっぱり、キラキラして見える。
ていうか、かわいらしい歌って。ちょっと、…同じ想いを抱いている者からすれば、嬉しいかも。

「…もういっぺんいってみろバカイト。お前ろくな仕事無かったよな、今無いよな、あぁ?取り消してもいいんだぞ。」
「え、違います違います!ごめんなさい!いや、マスターの想像力はすごいなーって思っただけでっ!」

あたしはそのやり取りに吹き出した。カイトさんとマスターが同時にこっちを見る。

「…なんか面白いとこあったっけ今の会話で。」
「特にないと…日常的な会話の一部なような気が…」

あたしはもう爆笑しちゃっててとまらない。なんでかわからないけど、たまにすごくつぼるシーンがあって、笑い出すととまらなくなる。笑い上戸、とみんなに言われる。
そしたら、カイトさんがくすっと笑った。

「グミちゃん、笑いポイント不思議って言われるでしょ。」

あたしは笑いながら頷いた。…なんか、これだけでも幸せって思っちゃうあたしって、やっぱヤバい。

「…普通なのか変わってるのかよくわかんないのがグミちゃんだからなぁ。はい、曲に話を戻すぞ。二人でこの曲の解釈とか話し合ってくれる?俺はちょっと違う人の収録やってくるわ。」

そう言ってマスターはあたしに向かって軽くウィンクする。その姿は結構決まっていて、マスターモテるだろうな、とふとどうでもいいことを思った。
本当に、マスターもがくぽさんも感謝してもしきれない。カイトさんと二人きりになれる、とか。

「えっと、グミちゃんのパート見せてもらってもいい?」
「あ、はい。ここなんですけど…ここがあたしのソロで…」
「ここがそれと対になってるやつで、俺が歌うんだよね?それで…」

どきどきしてるのを表に出さないように、あたしはカイトさんと二人っきりの時間を楽しんだ。



そして初収録の日。

「グミちゃん!」

15分前に行ったはずなのにカイトさんはもう既にレコーディングルームにいた。

「あれ、カイトさん早いですね。」

この頃にはもうさらりと話せるぐらいにはなっていた。内心心臓ばくばくだけど、…それ以上に、カイトさんと一緒にいられるのが幸せでしょうがないくらいで。

「うん、この歌難しくて。マスターに質問してた。」
「あ、そうなんですか。マスター、すごいわかりやすいですよね。」
「うん。尊敬してる。」

へへ、と少年みたいに笑ったカイトさんはちょっと意外で、可愛かった。

「おー二人とも早いな。…俺の悪口言ってたんじゃないだろうな。」
「違いますよ~逆、逆!」

カイトさんが慌てて否定する。

「ならよろしい。」

マスターも満足そうに笑った。
…幸せだなぁ。改めてそう思った。今まで一度だけでいいから、この中に入りたかった。カイトさんと一緒にレコーディングしたかった。カイトさんとこんな風に話したかった。
そして今そこにあたしはいるのだ。



レコーディングはいたって順調だった。
カイトさんはいつも安定して綺麗な声を出す。間近で聞いたカイトさんの歌声はくらっとするぐらい美しくて、セクシーだった。心拍数が跳ね上がる。マスターによく声に色気が足りないと言われるが、その意味がようやくわかった気がした。
それに比べて自分は…なんか子供っぽい。そう思ったけど、マスターからはOKの連続だった。

「これ、今日だけで仕上がりそうじゃないか?」

マスターにそう言われ、あたしは嬉しいのと同時にちょっと寂しくもあった。カイトさんとのレコーディングが一日で終わっちゃうのは嫌だった。そしたらまた、…また、接点がなくなる。
マスターの方をちらりと見ると、マスターはにっと笑った。

「グミちゃん、あとでこっちきて。明日もやるかどうかは今夜決める。カイト、いい感じだ。部屋に戻っていい。一応喉の手入れだけは怠るな。今日ちょっとお前の音域だときつい音も出したから、喉疲れてるかもしれん。」

そしてカイトさんがマスターに頭を下げて出て行った後、あたしはマスターの隣に立った。椅子を勧められ、腰掛ける。マスターは今回収録した音楽を流した。

「ったく…グミちゃんの見立てが正しかったのか、俺の曲作りのセンスがいいんだか、どっちなんだろうな。」
「…はい?」

それが遠回しに褒められているんだと気づいたのは、間が抜けた返事をした後だった。

「え、そんなに今回よかったですか!?」
「ああ。グミちゃん、確かにこの曲、ちょっと大人っぽく歌えてるよ。そのうえメイコやルカより若いから恋愛、って感じのフレッシュさがある。歌詞や曲調とマッチしてるよ。大人になったばっかりの女性みたいなね。自信持っていいと思うよ。で、この曲のことなんだけど。明日歌ったらこの新鮮な感じを出すのは、グミちゃん、多分辛いでしょ。喉が無理目だよね。他の曲もあるし。」

あたしは首を横に振ろうかと思ったけど、やっぱり小さく頷いた。自分のスケジュールを思い出したのだ。

「だから、この曲はこれで仕上げることにするよ。」
「…はい。」

小声で返事をすると、マスターはため息をついた。

「そんな寂しそうな顔すんなって。ほら、ご褒美。」

そう言って渡されたのは新しい楽譜。

「…ご褒美?」
「新曲だよ。カイトに歌わせる予定のね。女の人を、メイコとルカとどっちにしようかと思ってたんだけどグミちゃんが一番合いそうだ、これ。…ちゃんと自分の喉を優先したからね。今日の仕事もやりとおしたし。明後日までに音取りしておいで。明日は自分一人の仕事に専念してもらうから、音取りで喉痛めないようにね。今日は安静にするんだよ。はい、終わり。」

あたしは、歓声をあげたいのをこらえて、わざと無関心なふりをしているマスターに頭をさげた。

「ありがとうございました!」




こうして、カイトさんとあたしのデュエット一曲目、"Love Fruits" は完成した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

デュエット ~GUMI side~ ①<Love Fruit>

GUMI×KAITOの恋愛物語、第一章です。(前のは序章)
一曲目のタイトルはLove Fruit。
あんまり進展してませんw
可愛い感じにかけてるといいなw

閲覧数:122

投稿日:2012/08/31 12:26:35

文字数:3,561文字

カテゴリ:小説

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