コンサートの時よりも数百倍緊張してる気がした。握り締めた手はカタカタ震えたまま物を掴む事さえ適わない。小さなカメラを見ただけなのに不安が喉まで込み上げて気持ち悪い。私の呼びかけが届かなかったら皆助からないかも知れない。こんなんで私ちゃんと出来るの?頭が真っ白で何も浮かんで来ないよ!

「リヌさん。」
「…っ!翡翠さ…!」
「大丈夫…拙い言葉で良いんです。貴女の思う事をそのまま口にすれば良い、
 貴女の培って来た物をそのまま歌にすれば良い。」
「…でも…でも私…っ!」
「信用出来ませんか?」

言葉が出なくてふるふると首を横に振るのが精一杯だった。翡翠さんを信じてない訳じゃない、私がこんなに不安なのは私自身が信じられないから…誰かを振り向かせる自信が無いから…!おろおろして泣く事しか出来ない自分に自信なんて…!

「…んっ…!」

抱き寄せられると同時に唇が重ねられた。意外な程に柔らかくて、少し熱くて、不安が溶ける様に消えて、代わりに熱がうつる。今度こそ閉じた目はドキドキして開けられなくて、宙を迷った手は優しく絡め取られた。一瞬とも永遠とも思える時間の後、唇が離れると同時に膝から力が抜けた。

「ふにゃああぁぁ…。」
「ちょっ…!い、息は止めなくて良いんですよ!リヌさん?!」
「だ…だってぇ…。」
「なぁ、これこのまま流して良いか?」
「啓輔さ…?!ちょ!な、何録画してるんですか?!一体何時から…!!」
「『大丈夫』の辺りからずーっと居たけど…ほら。」
「再生しないで消して下さい!『保存』じゃありません!今直ぐ『削除』を選んで下さい!
 使い方が判りませんかぁ?!カメラ貸して下さい!!私がやって差し上げますよ!!」
「まぁ落ち着けって。」
「大体悪趣味ですよ!ほらこれ盗撮ですって!何の嫌がらせですか!兎に角カメラ…!
 ちょっ…オイ!コラ!啓輔っ!!」
「キャラ壊れてるなぁ。」

確かにそう思う…。でもドキドキは凄いけど不安はどこかに行っちゃったみたい。

「元気出ました!私頑張ります!」
「よし、良い返事だ!行けるな?翡翠。」
「…わ、判りましたよ!」

大丈夫、頑張れる。私は翡翠さんに心から笑ってみせる。それを見て真っ赤な顔で浅く頷いてくれる翡翠さんが何だか可愛くて嬉しかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -95.録画しました-

後で皆で観ようか?( ̄∀ ̄)

閲覧数:163

投稿日:2010/07/05 11:10:16

文字数:957文字

カテゴリ:小説

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