僕のリンちゃんがこんなに可愛いわけが……ある(第1話 ファースト・インパクト)

投稿日:2010/11/03 13:24:01 | 文字数:4,113文字 | 閲覧数:286 | カテゴリ:小説

ライセンス:

リンちゃんが実体化してキャッキャウフフしたりする俺得SSです
スペシャルサンクス:ザキオさん(サブヒロイン命名)、あなやさん(タイトル発案)

前のページへ
1
/1
次のページへ
TEXT
 

 ボーカロイド、キャラクター・ボーカル・シリーズ02、鏡音リン・レンact2。標準価格は税込み15750円、13%オフで13650円。歌声を合成する、Windows用のソフトウェアだ。僕がそれを注文した通販サイトや公式ホームページの記述をかいつまんで話すとこういうことになる。ちなみに以前どこかの店頭で目にしたパッケージの外寸は、一般的なDVDトールケースと大差なかったはずだ。
 それなのに、注文の翌日、日曜の昼前に早速届いた箱は人間が丸々入りそうな大きさで、開けてみたら本当に女の子が入っていたのだから、面食らわないわけにはいかなかった。

 「はじめまして、リンです。よろしくね、マスター」
 見慣れた通販サイトのロゴも何も入っていない白い巨大な段ボールの中、無数のクッション材に埋もれていた「それ」は、朝日に目を覚ますのと同じように目を開け、上体を起こして小さく伸びをすると、のそのそと箱から這い出してきて、開口一番そんなことを言った。
 人間を郵送?いや、そんなわけはない。ボーカロイド?アンドロイド?
「……ロボット?」
 やっとこの一語だけを絞り出した僕は、思い出したようにその場に尻餅をついた。
「そうだよ?」
 事もなげに言う女の子は、むしろ僕が何に驚いているのかが理解できないような様子で、膝に両手をついて不思議そうに僕の顔を覗き込んでいた。
(……確かに、似てる)
 見れば見るほど、彼女はパッケージ絵に描かれていた鏡音リンに生き写し(というのも、対象が対象だけに妙な言い方になるが)だった。大きな白いリボンも、少し肩にかかる金髪も、緑色のくりくりした瞳も、衣装や小物にいたるまで。それこそ絵からそのまま抜け出してきたと表現する他ないくらい、そのものずばり、鏡音リン、だった。
 しかし、僕は程なくその正体を悟った。
「ねえマスター、とりあえず何か食べたいな」
 彼女のこの一言が全てだった。何だドッキリか、そうかそうか。まったく、誰の企みだ?そういえば昨日、鏡音リンを買ったことをブログに書いたっけ……そう、こういう手の込んだ悪ふざけをやりそうな奴はあいつぐらいのものだ。やれやれ、久々にしてやられたよ……そんなことを思いつつ、僕は尻餅をついた恰好のまま笑い出した。だんだんと妙なおかしみが込み上げてきて、ついには腹を抱えてひとしきり笑い転げ、ようやく波が収まったところで立ち上がると、きょとんとした顔の女の子に詰め寄った。
「君は、葉月の何だ」
「……え……誰それ?」
 怪訝そうな表情を作るのがやけに上手い女の子に、僕は言葉にならない苛立ちを覚えた。
「分かってるんだよ、葉月の差し金なんだろ!?君も君だ、こんな茶番に笑顔で付き合って、楽しいか?大人をからかって……」
「痛いッ」
 勢いに任せて掴んだ細い肩は、ちゃんと人肌に暖かかった。急に激昂する僕に怯えて微かに震えるさまも、ごく普通の女の子にしか見えなかった。唯一、その次の瞬間、左腕のない彼女の身体が足下に倒れていて、左肩から先は僕の右手に掴まれたままになっていて、よく見ると取れた腕の内側に複雑な配線にまみれた機械が覗いていた――ただこの一点だけが、彼女が普通の女の子と違う点だった。
「…………ロボット?」
「だから、そう言ってるじゃん」
 女の子は立ち上がりながら膨れっ面をすると、残った右手を差し出してきた。
「腕、取れやすいんだから気をつけてよね……もしもーし?聞いてるの?」
「……あ、いや……ごめん……」
 彼女の声は聞こえていたが、もう自分が何を言っているのかも、何をしているのかも、さっぱりわけがわからなくなっていた。

 「……ボーカロイド」
「そう」
「鏡音リン」
「正解です!……あ、呼ぶときはリンでいいよ、マスター」
 ようやく事態が飲み込めた、とまで言っていいかはわからないが、少なくとも今までの人生に類を見ない混乱状態は脱し、僕の目の前にロボットの女の子がいるという現実はやっとのことで受け入れることができるようになっていた。
僕たちは、とりあえずその場に腰を落ち着けて、彼女の身元を一から確認する作業に入っていた(ちなみに彼女の取れた腕は、本人がえいっとはめ込んだとたんに元通りに動くようになった。どういう仕組みになっているのかは本人もわからないらしい)。
「……えー……好きな食べ物は」
「カレー!」
 どこぞの非公式設定みたいにミカンとかじゃないのか、いやでも黄色だし……などとどうでもいいようなことを考えたりもする。――いや、第一何を訊いてるんだ僕は。
「しかし、そもそも何でロボットなのに、ものを食べたりするんだ?」
「さあ?……あ、でも何か、すみ……すみみずばけもの……」
「炭水化物だな……」
「そうそれ、何かそれとか、たんぱく……シツ?とか。要するに人間が食べるようなものを食べれば、分解されてエネルギーになるんだって」
 そうかいそれは分かりやすくて好都合だね、などといった皮肉を喉元で押し留めつつ、僕は彼女の言葉に引っかかりを覚えた。
「……だって……、っていうのは、どこで誰から聞いた話なんだ?」
 このあたりが明らかになれば、彼女の出自などを紐解くことができると期待したのだが、その返答はというと、
「さあ?」
……ということで、取り付くしまもなかった。
「だって、見たり聞いたりしたのを覚えてるんじゃなくて、ただ、何でかなって思ったら頭の中に答えが浮かんでくるんだもん。……ねえ、それより、食べ物の話してたらよけいお腹減っちゃった」
「そうかい……」
 まあ、詳しいことは後でゆっくり聞くとしよう。僕はまず彼女の要求に応えるため、シンクから(折悪しく、と言うべきか、レトルトカレーは切らしていたのでとりあえず)買い置きのコーンフレークの箱を引っ張り出すと、部屋の隅で小さく唸りを上げている冷蔵庫の扉を開けた。

 「……ふーっ、ごちそうさま」
 徳用サイズのコーンフレーク半箱あまりを我が家で一番大きい丼に入れ、軽くコップ2杯分の牛乳を注いだものを、彼女は5分とかけず平らげてしまった。
「……もしかして、毎日3食この調子なのか」
 恐る恐る尋ねてみる。食事の用意をしている間にリンにちゃっかり座椅子を取られてしまったので、仕方なく腰を下ろしている座布団の、慣れない座り心地さえ何だか不安を助長する。
「そそ、そんなことないよぉ。いつもはもっと、フツーな感じで大丈夫だよ?」
 手の甲で口元を拭いながら、彼女は挙動不審な笑い方をした。
「さっき起きるまではね、1週間ぐらい寝て……っと、スリープ状態のままだったから。起動時に比べると消費電力は10%程度に抑えられるんだけど、それにしたって、えーと……半日以上は食べてない計算になるでしょ?」
「そういうもんかね……」
 どうか本当でありますように、と天に祈る他なかった。
 それにしても、未だに彼女がロボットだということが信じられない。当然のように空腹を訴えたときの顔も、成長期を思わせる食べっぷりも、食べ終えた後の満足げな表情も、まるっきり普通の女の子だった。それなのに、どうして。そしてなぜ、そんな「もの」が僕のところに。
「……それじゃあ、食事も済んだところで、まずは詳しい話を聞かせてもらおうかな」
「え、何の?」
 座椅子にもたれたまま、いっちょまえに膨れたお腹をさすったりしていたリンは、大きなリボンをはためかせて姿勢を正した。
「うん、まあ、色々ありすぎて何から聞いたものやら、という話ではあるけど……とりあえず、どうして君は……リンは、僕のところに来たんだ?」
「え?それはもちろん、歌うためだよ」
 ほぼ即答だった。まあ、それはそうだ。僕は自分で作った曲を形にするために彼女を――もちろん、当初の意図としてはアンドロイドではなくPCソフトを、だったわけだが――買ったのだから、それが叶わないようでは元も子もない。
「……いやいや、でも」
 かぶりを振り、何となく状況に流されてしまいそうな自分を落ち着かせる。そうだ、僕が訊きたかったのはそういうことじゃない。
「えー……だから、どうして普通に売られてるようなソフトじゃなくて、ロボットなんだ?」
「えっと……」
 リンは友達とひそひそ話をするときのように耳(正確にはヘッドホンだが)に手を当てると、ゆっくりと目を閉じた。そうして数秒じっとしていたが、やがて目を開けると、
「わかんない」
と、どうにもならない答えを口にした。
「わかんない、って……」
「だって、何にも覚えてないんだもん。ここに来る前にいた場所のことも、私を作ってくれた人のことも、全然記憶にないんだもん。……ただ、インプットされた情報があって、それを頼りに動いて……あとは歌って……それしかできないんだもん」
 ふと見ると、リンは目にうっすらと涙を浮かべていた。――そうか、怖いのか。誰も知らない、何も覚えていない。まして唯一目の前にいる人間にそのことを責めるような物言いをされては、彼女はもう何にもすがることができないのだ。
「……まあ、あの箱から察するに、アマ○ンに連絡したところで何が分かるでもないだろうけど」
 白無地の、差出人情報も何も記されていない段ボール箱の中からリンは姿を現した。箱には彼女自身とスチロール製のクッション材が入っていただけで、送り状の類も見当たらなかった。そして彼女自身に語ることができない以上、その謎を解く鍵は何もない。
 ――ただ。
「もう何をどうしたもんか、見当もつかないけどさ」
 小さく震えながら潤んだ瞳で僕を見るリンに、これ以上不安な思いはさせたくないと思った。まったく、何から何まで人間くさくできてるもんだな。
「とりあえず、細かいことは置いといて……歌、歌ってくれるかな」
「え……」
 しばらくきょとんとしていたリンは、やがて涙を指でちょいちょいと拭うと、
「うん!!」
最初に見せた、どこか硬質でぎこちない笑みより、何倍も可愛らしい笑顔で頷いた。

ネリマクミンです。
いい年して学生です。
ニコ動とかでひそやかにミク・リン・レン・ルカをプロデュース中。
http://www.nicovideo.jp/mylist/4459481
HPも細々やってます。
http://atmz.biz/
使用楽器はギター、ウクレレ、ブルースハープ、オカリナ、一応ピアノ(大ブランクあり)です。いずれも下手くそですが頑張ります。

もっと見る
▲TOP