「なぁ、いつもここで何描いてんの?」
夕方のグラウンドの隅にある小さな木の下でそう問われた。
先ほどまでボールを追っかけて走っていた彼は少し息を切らしていた。
少し汚れたTシャツで汗を拭う姿につい見惚れてしまう。
その熱い視線に気付いたのか、『ん?』と首を少しかしげられて我に返った。
「描きたいものがここにあるの。」
「いつも?」
「いつも。」
素っ気無い返事だっただろうか。
口下手な私としては結構頑張っている方だ。実際、こんなに心臓がバクバクしている。
こんなに緊張しているのも可笑しいが、会話という会話をするのがこれが初めてだ。
いつも見ているばかりの私には今の状況は心臓に悪い。
「描きたいもんって、何?」
手元にある開いたスケッチブックを覗こうと、前のりになってくるのでパンッと閉じた。
「だめ。」
「なんで?」
「なんでも。」
「良いじゃん。」
「恥ずかしい。」
「そんなに?」
「そんなに。」
『そっか。』と諦めてホッと胸を撫で下ろしていたのもつかの間、私の手の中にあったスケッチブックが一瞬にしていなくなった。
そして、消えたスケッチブックはいつの間にか彼の手元にある。
「さて。見物。」
「だめ!」
開かれるスケッチブック、そして彼の目を丸くする姿。
あぁ、もう泣きたい。
「・・・・・。」
「ごめっ・・・。」
頭の中にある恋の花がひらひらと散り、我慢仕切れなかった涙がポロポロと出る。
「ストーカー・・・みたいだよね。」
花は散った。ならば後悔はしたくない。
「ただ好きだった。一番好きな姿を収めたかった。それだけ。」
あぁ、また素っ気無い。もう自分が嫌になる。
逃げ出したいのに足は動いてくれない。
「もう、こんなことしないよ。」
彼からスケッチブックを奪おうと力強くひっぱったが、彼の手はしっかりとスケッチブックを掴んでいた。
『返して!』と彼を睨み付けようとしたが、真っ直ぐに私を見る彼に怖気づいた。
少しビクッとすると、彼は優しく笑ったのだ。
「絵だけで満足ですか?」
散ったと思った恋の花は実は枯れたのではなく、新しい果実を付けたことを察したのは、数秒後であった。
終
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好音トワ
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初めまして!こんにちは、好音トワです。
いいですね!絵を描く私には感情移入しやすい話でした!
主人公が口下手なのも、私っぽくてw
確かに実際にはまず無いですよねw
でも、だからこそ、キュンとくるものがありました!
2013/04/19 11:27:10