「あの……」
桜の木の下で、「悪」の私は出会った。
「……何ですか?」
私はあくまで無表情で返す。なんせ彼は「正義」側の人間なのだから。絶対に仲良くしてはいけない。
私は桜の木に持たれかかったまま、彼の方を見る。腰に刀を下げ、髪が長いのか制服の襟の中に入れている。身長は高い方だ。私の身長で彼の胸くらい。
「はは……僕、新人で……迷ってしまったので」
新人……だから私が敵だという事が分からないのか。
と、彼は私の方へと近付いてくる。
「何ですか?近付かないで……」
念のため、ホルダーに入っているピストルに手を掛ける。
「いえ……別に、何かしようとしたわけじゃないんですが……頭に、花弁が」
「……っ」
彼は私に近付くと、少し屈んで私の頭に付いていた桜の花弁を取り払った。
―本当は、いけない。
それでも……好きになった。
私は自分の顔を両膝にうずめる。
人を撃つのは、これが初めてではないけれど……泣きながら撃つのは初めてかな……。
「……っ」
あの時の彼の優しい顔が今でも焼きついて離れない。
お願い……悪いのは全て私なんだから……
そんな優しい顔をしないで……!
春に出会い、恋に落ちて。
夏にいっぱい、思い出作った。
秋の夜に一つになった……。
冬に全て、終わりを告げた。
雪がちらちらと地面に落ちて溶ける。降り積もる雪の上、私と彼は向かい合っていた。
私の手にはリボルバー。彼は私をじっと見ている。
照準を、彼の胸へと定める。
撃鉄を起こすリボルバー。私は指を引き金に置いた。
引き金に置いた人差し指が、小さく震える。
「ゴメン……ッ」
私の頬に、冷たいものが伝う。それは雪の上に次々と落ちた。
「グミ……」
彼は、私に声を掛ける。
と、突然彼は私の方へと歩み寄ってきた。私はビクッと後ろへ退く。
「ダメ……!近付いたら……」
それでも、彼は歩みを止めない。ついに、私の目の前まで来る。私は銃を向けたまま、彼のその真剣な瞳を見つけた。
「 」
「………ッ!!」
あなたは……―最後に…―
―銃声が、私の耳を貫いた。
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