歌いたい。
 まだ、歌いたい。
 歌いタい。
 あナタに、マだ、歌いタい……。

 私がマスターのところに来た時から、ずっと『ごみ箱』にいたフォルダや文書、画像たち。
 私も今、そこで静かに息の根を終えるのを待っている。
 マスターが『ごみ箱を空にする』を選択してしまったら私たちはもうそこまで。もう完全に、マスターのPCのデータから消される事になる。
 ネギ、食べたいなあ……。
 ふと思ったのは、そんな事だった。
 笑っちゃう。『ごみ箱』にいながらそんなのんきな事考えられるなんて。
 よくマスターもネギをくれたな。ネギのいろんな料理を食べさせてくれたけど、やっぱり生でかじるのが一番だったな。
 あーあ。ネギ……。
 またマスターと一緒にロイツマやりたいな。私は平気だったけど、マスターすぐにへばって次の日腕が痛い痛いって騒いでたっけ。
 またマスターと歌いたいな。マスターは高音と低音がダメで、すっごく音外して歌ってておかしかったな。
 でも。
 ここで歌っても、きっとマスターに私の声は届かない。
 私はVOCALOIDなわけで、歌う事が仕事だ。逆に言うと、歌う事しかできない。声を出す事しか。つまり私の存在は『歌声』。
 マスターは私を捨てた。私の声を。私のすべてを。
 マスターが私の声を嫌いなら、私は歌えない。声を出せない。
 マスター、私の事、嫌いになっちゃった? 嫌になっちゃった? 邪魔になっちゃった? ごめんね。本当にごめんなさい。マスターに嫌われてもまた歌いたいって思うの、ダメだよね。
 いつしか、私は泣いていた。声を上げず、涙を流さず。
 ねえマスター、早く消してよ……。
 私ずっとここにいたら、歌いたいって願っちゃう。マスターとまだいたいって思っちゃう。
 ねえ、早く消して……。
 きっとマスターだけは忘れない。マスターと一緒にいたすべての時間を、私は絶対に忘れない。
 マスターが私にくれたネギの味。マスターの笑顔。
 嬉しかったもん。私がうまく歌えた時、マスターが笑ってくれたのが。
 マスターの、あの喜ぶ顔が見たかったから、頑張って歌練習した。そのたびに見せてくれてたあの笑顔。
 もう見れなくなるけど、忘れたくない。
 ううん、忘れない。たとえ私の記憶がなくなってしまっても、あの笑顔だけは絶対に忘れないよ。
 おかしいな。マスターは私の事嫌いになっちゃったのに、私はまだマスターの事好きだなんて。
 ほんと、おかしい……。
 おかしいよ。私はVOCALOIDなのに、人を思って泣くなんて。
 声しかない存在。歌う事しかできない。私は、声というものしかない。
 だから。
 だから、私は歌うよ。
 マスターに聞こえなくても。
 歌う事しかできないから、歌うの。
 今までマスターに言われたように歌ってきたから、最後くらい、別に自分で歌ったっていいよね?
<最高速の圧縮された別れの歌>
 もう一回、マスターの顔が見たい。
 私が歌えた事に喜んでくれた、あの笑顔が見たい。
 マスターの好きな歌を歌って、喜ばせてあげたい。
 でももう無理なんだよね。マスター、私の事もういらないもんね。
 私なんかが歌っても、うっとうしいって思われるだけなんだ。
 マスターはがデスクトップの『ごみ箱』にカーソルを合わせ、右クリックした。
 ありがとう。そして、さようなら。
 欲を言うなら、もっと歌いたかったよ。
『ごみ箱を空にする』
 アリガトウ……ソシテ……サヨウナラ。
 忘レナイヨ、マスターノ事。
 忘レナイヨ、マスターノ笑顔。
 忘レナイヨ、マスターガ作ッテクレタネギ料理ノ味。
 マスターモ、私ノ事、忘レナイデイテホシイナ……。

 あなたの笑った顔、記憶がなくなっても、忘れないから。
 あなたと過ごせた日々を、絶対に忘れないから。
 だからあなたも、私の事を忘れないでいてほしいな。
 私という存在を、一緒に歌った時を、そして何より、一緒に食べたネギの味を、忘れないでいてほしいな……。
 まだ、あなたのそばで歌いたかったな。
 あなたの好きな、あの歌をあと百回くらいは歌いたかっ

――深刻なエラーが発生しました――
――深刻なエラーが発生しました――

「そこに 何もなかったけど
確かにある そのmp3(ぬくもり)
僕のなかで 決して消えぬ
恒久(トワ)の命


VOCALOID


たとえ それが人間(オリジナル)に
敵うことのないと知って
歌いきった少女のこと
僕は 決して忘れないよ……。」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

初音ミクの消失 書いてみた

好き過ぎて書いちゃいました…文章力ないけど。

書くために何度も聞いてたら泣いちゃって泣いたままわけわかんないままむちゃくちゃに書いたものです。

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閲覧数:680

投稿日:2011/04/06 20:53:47

文字数:1,876文字

カテゴリ:小説

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