風達が蜘蛛の糸を切れなかったのは、斬る順番を無視して力任せに切ろうとしたからです。斬る順は、蜘蛛の網を作った逆に斬って行けばいいのです。糸は、中心から外側に向けて円を描いて張ってあります。外側の最後の交差している処から、順に斬ればいいのです。一つの交差に一つの風が、つかまっています。最後の交差に北風がつかまっています。そこを斬ったら、出口にもどりなさい。

 洞窟は、ものすごい風が吹いています。普通の人が入れば、溶岩の海まで吹き飛ばされてしまいます。そこで、合わせ鏡を背負い、一人が外にいます、一人が洞窟の中に入るのです。洞窟の風は、鏡に当りもう一つの鏡から出てきます。

 最後の糸の交差は、一人では斬れません。北風を封印した交差ですから簡単に斬れないのです。最後の交差の時は、風は北風だけです。吹き飛ばされないように、注意して洞窟に入ってください。中にいる子も、風がまともに当るようになります、吹き飛ばされないようにしてください。二人そろったら、最後の交差を一緒に斬るのです。蜘蛛の糸は、ちぎれバラバラになって消えていきます。

 一つ、絶対に守らないといけない掟があります。蜘蛛の糸を切って帰る時に、絶対後ろを振りむいてはいけません。洞窟の出口まで、振向かないで出てくるのです。神の封印は、出口に出るまで残っているのです。いいですね。

 そう言うと、老婆はジプシー達と旅に出るのでした。

 長は、二人を危険なブリオッシュ山にやろうか迷っていた。でも、住民の生活の為、二人を山に行かせる事にした。

 二人の旅の準備が出来た。村の皆が出迎えに出てきた。二人は、荷馬車に乗ってブリオッシュ山の麓を目指します。

 麓でも、ものすごい風が山の中腹に向かって吹いていました。荷馬車をそこに置いた二人は、歩いて山を登り始めます。

 中腹に来ると、山に大きな穴が開いていました。傍に行くと、吸い込まれそうになって近寄れません。二人は、老婆に教わったように、鏡を背負いました。姉が、剣を構え中に入って行きます。弟は、外で姉の風を外にだしてやるのでした。

 姉が、どんどん中に入ると大きな蜘蛛の糸が、前を塞いでいました。蜘蛛の網には、透明な風(洞窟の中は、光苔が柔らかく光っていて、それが風達に反射してうっすらと風の形が判るのでした。)達が、もがいていました。姉が話しかけても、狂ったように風を吹き鳴らしもがくばかりでした。

 姉が、一箇所、蜘蛛の糸の交差を斬りました。そうすると、一個の風が姉の回りを飛び交い、お礼を言って飛んで行きました。姉は、夢中で順番に斬っていきました。不思議な事に、どの糸も斬れるのは横糸でした、どんなに向きを変えても、横糸しか斬れませんでした。

 最後の交差を、斬ろうと剣を叩き付けてもびくとしません。北風は、他の蜘蛛と同じように狂ったように、風を吹き鳴らすだけでした。姉は、老婆の言葉を思い出しました。鏡に向かって、最後の交差になったから、注意して入ってくるように弟に話しました。弟は、風に飛ばれないように、姉の待つ蜘蛛の網にやってきました。

 二人で、一緒に蜘蛛の網の交差を断ち切ると、蜘蛛の網は粉々になって消えていきました。北風は、正気を取り戻します。お礼を言って奥に飛んで行きました。

 二人は、手をつないで出口へ向かって歩き出しました。洞窟の奥から、北風の助けを呼ぶ声が聞こえます。「助けてください。蜘蛛の糸の破片が岩に刺さって、それにつかまってしまいました。その剣でこの糸を斬ってください。」弟は、北風を助けようと振向こうとします。それに気づいた姉は、手を引っ張ります。弟は、急に引っ張られたので驚いて、その場に立ち竦むのでした。姉は、そのまま歩いていたので、手を逆に引っ張られる格好になってしまいました。

 姉は、後ろを見てしまいました。北風の悪戯っぽい顔が、笑っていました。姉の体は、鏡に吸い込まれて行きました。驚いた弟は、姉の鏡と剣を拾うと、一目散に出口に走っていきました。

 村に戻った弟は、全てを父に話しました。火山は静まり、村に平穏が生まれましたが、娘はもう帰ってきませんでした。

 ある日、あの老婆がもどってきました。長は、姉が鏡に捕らわれた事を話し、助け出す方法を聞きましたが、神の封印はもう解けないと言われました。代わりに、老婆は、ガラスの小瓶と羊皮紙を、弟に渡しました。『これに願いを書いて海に流すのです。いつか叶えられますよ。』そう言って、また旅に出て行ったのです。

 弟は、姉が消えた日から泣いてばかりいました。姉の無邪気な笑顔が見たい。おやつを一緒に食べたい。その為なら、どんな事でもやってやる。いくら思っても、思いは届きませんでした。

 弟は、羊皮紙に願いを書いて、小瓶につめ海に流しました。

 「もしも生まれ変われるならば その時はまたあそんでね」

Fin

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

北風と合わせ鏡(その3)

 mothy_悪ノPさん「悪ノ」シリーズを元に二次創作小説「悪の王女」を書いています。
その第一話、『当時の長(おさ)は、娘を生贄に噴火を止めたと言われている。』この部分の物語です。

閲覧数:331

投稿日:2008/07/09 18:21:43

文字数:2,026文字

カテゴリ:その他

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