オリジナルマスターで好き勝手した結果、なんとコラボのお誘いがあって2人でお話を書けることになりました。
コラボのお相手は、心に沁みるお話を書かれる、桜宮小春さんです。
桜宮さん宅と自分とこのVOCALOIDのマスターたちが暴れまわるので、苦手な方はブラウザバックプリーズ。
大丈夫という方は本編へどうぞ。
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「それで、メンバーを探していたんですが――」
「見つからなかった、と」
大まかな企画の説明をしたところで、俺の代わりに言葉の続きを口にした彼に頷く。
企画の内容を頭で整理して、自分の希望とも照らし合わせているのだろう。
彼はしばらく間を取ると、顔を上げた。
「……わかりました。俺で良ければ、一緒にやらせていただきます」
もしも企画にPVを出して結果が悪かった時のことを理由に断られるなら、少しぐらい食い下がってみようかと思っていた俺は、思わず苦笑を零した。
いくら何でも、上手く事が進みすぎている気がするのは……俺だけじゃないはずだ。
Kickass Fellows
隆司編 第二話
企画に参加したいという思いは受け取ったが、話の流れでつい言ってしまったということがあるかもしれない。
見るからに真っ直ぐそうな彼が、一時の気の迷いで大事な決断をするとは思えないが……いや、寧ろそういう性格だからこそなのかもしれない。
だからこれは、念のため、だ。
「いいんですか?」
そう尋ねると、間髪入れず「いいも何も、貴方が言った事でしょう」という答えが返ってくる。
一応自分の中でいろいろ考えて出した答えがそうだと言うなら、俺も何も言わないのだが。
「俺としても、一緒の方がありがたいですし、そんな気にしないで下さいよ」
俺の考えを透視したような顔をして彼は笑った。
実際は俺の思っていたところとは少しずれていたが、せっかくやる気があるようだから、ここは一緒に参加してもらった方が良いだろう。
何より、これは毎日のように苦労をかけているルカのため。
そして、他にあてのない今、彼の言葉に甘えるしかないのだから。
「では……よろしくお願いします」
手を差し出すと、彼は戸惑いもせずその手を握り返し、「いえ、こちらこそ」と応えてくれる。
その手は思ったよりも繊細そうな手だった。
これだと鍵盤も触れそうだ。
音楽には向いていそうだが、スポーツには不向きかもしれない。
そんな半ば無意識的な考えに気を取られながら手を離したところで、彼が「あ」と声を漏らした。
「自己紹介がまだでしたね」
俺としたことが、彼のその言葉でお互いに名乗っていなかったことにようやく気付いた。
これが仕事だったら失礼にもほどがある。
とんとん拍子に話が進んでいくことに気を取られていても、いつもならもう少し余裕をもって話しているはずなのだが……本当に俺らしくない。
企画のことで頭を働かせすぎたのだろうか。
「白瀬悠といいます」
そう言われて、名乗る時にまでわざわざ丁寧に喋ってくれる彼に小さく笑う。
今までは店員として話をしていたが、話がまとまった以上はもう店員と客という感覚でいてはおかしいだろうに。
彼の性格がそうさせるのかもしれないが。
「悠、か……じゃあハルちゃん、だな」
「やめろ」
今までどれだけ同じことを言われてきたのか、その反応は今までで最も早かった。
彼……悠の口調を崩すには十分すぎたようで、俺としてはしてやったりだが。
ただ、勢いだけで言ってしまったらしい悠はまずいと思ったのか、慌てたように口を開く。
「あ、なんか、すみません」
「あー、いいって。店員と客としての話じゃないし、見るからに年も近いだろ? ま、俺は店員じゃなくてただの店番だけどな」
からからと笑うと、どこか彼の表情がやわらかくなった気がした。
初対面だったこともあって、どこか緊張していたのかもしれない。
しかしながら、最初から思ってはいたが、からかうと面白そうなやつだ。
これなら企画の方も楽しくやっていけるだろう。
「それにしても……そんなに嫌なのか、ハルちゃんって呼ばれるの」
「ハルちゃん言うな、頼むから。気にしてるんだよ」
やはり散々女のような名前だとからかわれてきたのか、げんなりした表情で悠は言う。
そりゃ悪かったな、と言いながらも口元から笑みは消さなかった。
ため息でもつきたそうな悠に、親が泣くぞ、とは思っても口には出さない。
悠だって本気で自分の名前自体を嫌っているわけではないだろうからな。
「俺は水沢隆司。よろしくな、悠」
にっと笑みを浮かべると、悠は何やら考えるように間をあけた後で、ようやく「ああ。こちらこそよろしく」と返事をした。
考えるほどの返事でもなかったということは、何かハルちゃんと呼んだことへの仕返しでも考えていたのかもしれない。
そしておそらく、その考えは当たっている。
その辺りをいじっても構わないが、今はもう少し話を詰めておくのが得策か。
「で、だ。カバーコンテストの話に戻るが……悠は、どのVOCALOIDを持ってる?」
すぐにVOCALOIDの名前が返ってくるかと思えば、「隆司は?」と聞き返される。
これは、悠の家にはVOCALOIDが複数いると見た。
もし少ないなら、先に言うはずだ。
「巡音ルカのみだ」
悠は納得したように小さく頷いた後で、自分の答えを口にする。
「俺のとこは、MEIKOから鏡音までの5人だな。それ以上は流石に経済的にキツくて」
「5人ってお前……」
複数いると言っても3人ほどかと思っていた俺は、つい苦笑を零した。
俺自身も海外のも含めて全て買おうと思っていたが、結局相手をしてやる時間がとれずにルカだけなのだ。
経済面のこともそうだが、何より5人もいて相手をしてやる時間があるとは……羨ましい。
そう思ったことが、開いていた口からそのまま「すごいな」と声になっていた。
「かなり無理したけどな。でも、おかげで賑やかに過ごせてる」
「はー……」
悠の話を聞きながら俺もルカに仲間を増やしてやろうかと考えたが、脳内の考えを白紙に戻す。
そんなことを考えたところで、結局多忙の波に追いやられて泡になって消えるだけだ、と。
白紙に戻した思考回路に、また企画の考えを運び入れてやる。
VOCALOIDは全員で6人。
しかもかぶっていない……が、だからと言って全員を歌わせるというわけにもいかないだろう。
そんなことをすれば悠が苦しむことになる。
誘った手前、大きな負担をかけることはできない。
「しかし……悠のところにそれだけVOCALOIDがいるなら、メンバーは俺たちだけでいけそうだな。そっちの負担が大きくなるかもしれないが……」
これはあまり気乗りしないが、2人ぐらいまでならどうにかなるだろうか。
そんな思いも込めて言ったことに気付いたのか気付いてないのか、悠はあっさりと「俺は別にそれでもいいぞ」と言い放った。
どうも簡単に答えすぎている気がしてならないのだが、予定の方は大丈夫なのだろうか。
こっちが心配になってくる。
「となると、あとは曲、か……隆司は今のところ、何か候補とか考えてるのか?」
俺の心配をよそに、悠は話を進めていく。
悩んでいるのが馬鹿らしくなった俺は、とりあえず尋ねられたことに答えていくことにした。
時間があるのだから、決められるところまで決めておけば、後々楽だろう。
「曲の方は課題曲が何曲か提示されてるから、その中から選ぶんだよ。リスト、出そうか?」
悠がこくんと頷いたのを確認して、まずカウンターの片隅に置いたままだったノートパソコンを悠の隣で開いた。
素早く検索をかけて、例のページを開く。
課題曲のリストがディスプレイに表示されると、「こんな感じだな」と悠の方へ向けた。
「へえ……結構あるんだな」
思わず、といった感じで漏れるその言葉。
その視線が順に曲名を追っているのを見ながら、その目が楽しそうなことに気付いて小さく笑った。
水を得た魚、もしくはお気に入りのおもちゃを見つけた子ども、だろうか。
まさに、今の悠はそんな感じだった。
「課題曲って、これで全部か?」
「そのはずだ」
他にページがないかを俺に確かめたのだろう、悠はもう一度リストに目を向ける。
良い曲は見つかっただろうか。
俺の中でもこの中から数曲やってみたいと思った曲はあるが、もし悠がやりたいという曲があるのなら、それで構わない。
「たとえば……これとか、どうだろう」
ノートパソコンに触れた悠は、ノートパソコンを回転させた。
リストアップされた曲の中にカーソルで示された曲がある。
思わず口元が緩んだ。
「……ちなみに、なんでこの曲を?」
「男声を女声でカバーする事になるが、それも面白いかと思って」
返ってきた言葉に、小さく笑う。
俺が選んでいた数曲の中でも、最も楽しめそうだと思った曲を悠が選んでいたからだ。
話が合いすぎるとは思っていたが、こんなところでも、か。
悠が選んだ曲は、KAITO、鏡音レン、がくっぽいどの3人が歌ったもの。
そして、カバーをするなら女声……ここまでくると、悠と俺が組むことは誰かによって仕組まれていたようだ。
「いいかもしれないな」
「マジか」
間髪入れず返ってきた言葉に、「ああ」と答える。
驚いたように言った悠は、どうやら冗談交じりで言っていたらしい。
それとも、この異常とも言える話の進み方に思わず出てしまった言葉だったのか。
驚くのも当然だろう。
そう思っている俺ですら半信半疑なのだから。
「そうだな……うちのルカと……悠のとこにはMEIKOもリンもいるんだよな? たとえば、その3人でやってみる、とか」
自分で言い出したことだと言うのに何を驚いているのか、悠は呆気にとられた様子だ。
俺が言った『MEIKOとリン』というメンバーに驚いているのかもしれないが、その線は薄い。
原曲がKAITO、鏡音レン、がくっぽいどならば、誰でも真っ先に思いつくメンバーだろうからな。
しばらく呆けていた悠は突然我に返って、「隆司は、それでいいのか?」と口にした。
「あくまで例えだけどな。何でだ?」
「いや……なんかこんなあっさり決まっていいのかと」
我に返ったと言っても、表情が呆けたままの悠は随分と間抜けで、つい笑い声が漏れる。
偶然も必然なら、何もおかしいことじゃない。
気持ち悪いほどの偶然ではあるが、これは最初から決まっていたことなのだと今では言えそうなのだから、悠との会話で俺も随分変わったものだ。
似て非なる偶然なら、律やカイトと一緒にずっと経験してきたが。
笑っている俺を訝しんでいる悠に気付いて、ようやく笑いをおさめた。
「まあ、悠も嫌じゃないんだろ? だったらこれでいいんじゃないか?」
悠は頷きもしなかったが、その目は肯定をはっきりと示していた。
これほど表情に考えていることが出るやつも珍しい。
さぞかし他の友人たちにもからかわれることが多いだろう。
俺はディスプレイに浮かぶカーソルで曲名を囲うように動かした。
「よし、じゃあ曲はこれで。歌うのはさっき言った3人でいいのか?」
「むしろそのつもりで言ってたんだが」
目を輝かせている悠に、「決まりだな」と小さく笑む。
ガキか、と言いたくなったが、ここは黙っておこう。
ノートパソコンを切って、またカウンターの片隅へと持って行く。
ここで決められることはもうこのくらいだろう。
「今度3人を会わせて、細かい話はその時にするか」
「そういう事なら、俺がめーちゃんとリンを連れて行く。うちはゆっくり話すには騒がしいからな」
それはつまり、VOCALOIDがそれだけ揃うと、子どもが大勢いるようなものと考えていいのだろうか。
確かに、知人宅にいるリンとレンは元気だったし、想像には難くない。
俺の家なら、確かに静かで防音設備も機材も高速回線も揃っているし、十分だろう。
「じゃあ、俺の住所教えとくな」
「あ、その前に1つ頼んでいいか?」
まだ何か言うことがあっただろうか。
言わんとしていることがわからず、眉根を寄せる。
「別に構わないが……どうかしたか?」
真剣な表情から一転、悠は笑って空になったグラスを軽く持ち上げた。
「おかわり、よろしく」
何を真剣な顔をして言い出すかと思えば。
悪戯が成功した子どものように笑っている悠に、思わず苦笑。
もちろん俺が次に言った言葉は、かしこまりました、だ。
【オリジナルマスター】 Kickass Fellows 第二話 【隆司編】
あまりにも話が進むスピードが速すぎる件(そして異様に長い件)。
もう曲まで決まったとか……まあ楽しそうだからいいか?
お互いにお互いの理由があって組むことになった2人ですが、これからどうなることやら。
隆司にからかわれてる悠さんの心境も、桜宮さん宅でぜひお楽しみください。
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悠さんの生みの親、桜宮小春さんのページはこちらです~。
→ http://piapro.jp/haru_nemu_202
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