こんにちは!高橋一大です。
静まり返った薄暗い部屋の中で、冷たい和菓子用のナイフを握りしめている光景を思い浮かべることがあります。まな板の上にぽつんと置かれているのは、深い海の底から切り出してきたかのように不自然な青さを誇る、ひと塊の羊かんです。
その硬く冷やされた表面に刃を立て、静かに力を込めていくと、まるで透き通った氷の削り節のような薄い皮膜がハラハラと机の上に舞い落ちていきます。私たちが毎日食べている甘いお菓子とは全く異なる、どこか遠い世界から運ばれてきた不気味なほどの透明感。その削り屑を指先でつまむと、体温をすっと奪い去っていくような冷ややかな感覚が伝わってきます。
レンズを通して世界を切り取るとき、私はいつもこの青い削り節を一枚ずつ集めているような感覚にとらわれます。何気ない日常のすぐ裏側には、誰にも知られることなくひっそりと横たわっている冷たい歪みや、言葉にならない切なさの膜が存在しています。
例えば、夕暮れの街角で風に吹かれて舞い上がる一枚の古いレシートを見つめてみてください。そこに印字された文字はすっかり消えかけており、誰かが何かを買い求めたという確かな事実だけが、冷たい風の中でひらひらと揺れています。誰の記憶にも残らず、やがて水たまりに沈んで消えていくその儚い紙片の中にこそ、世界の最も純粋な静寂が隠されている気がしてなりません。
音や物語を生み出す行為は、こうした世界の隙間に落ちている冷たい欠片にそっと触れ、自分だけの熱をほんの少しだけ吹き込んであげる作業なのかもしれません。綺麗に整えられた美しい言葉よりも、少しだけ歪んで壊れかけた不完全な形の中にこそ、人の胸を刺して抜けない特別な感情が宿るのです。
見慣れた景色の奥深くには、まだ誰も踏み込んだことのない冷ややかな世界が広がっています。その場所で静かに呼吸をするとき、私たちは自分でも知らなかった新しい表現の芽を見つけることができるはずです。
コメント0
関連する動画0
ご意見・ご感想