浮田妃菜です。今日は趣味の小説を書きます。

静かな田舎町に、一軒の古い時計屋がありました。店主の真一は、70歳を超えた頑固な職人でした。時計を修理するのが彼の生きがいで、日々店にこもり、カチカチと音を立てる時計たちに囲まれて暮らしていました。しかし、彼にはひとつの秘密がありました。それは、毎朝店を開ける前に庭で小鳥たちに餌をやることでした。

真一の庭には、野鳥のための小さな餌台がありました。いつから始めたのかも覚えていませんが、小鳥たちはすっかり彼の庭を「集会所」として覚え、朝早くからピーピーと鳴いて集まるのです。特にお気に入りは、一羽のスズメでした。羽が少しだけ白く変色しているこのスズメを、真一は「シロ」と名付け、特別に親しんでいました。

ある冬の寒い朝、真一は庭にいつものように出ました。しかし、シロがいませんでした。「珍しいな、どうしたんだろう」と思いながらも餌を撒き、他の小鳥たちを眺めていました。その日の午後、修理に取り掛かっていた時計の針がどうしても合わず、イライラして庭に出てみると、凍えたようにシロがじっとしていました。

「ああ、どこかで迷っていたのか」と真一はそっとシロを手に乗せ、暖かい店内に連れ帰りました。古い毛布でくるみ、小さな箱に入れて温めると、シロは安心したように目を閉じました。

その夜、真一は昔のことを思い出していました。若い頃、自分は家族に対して不器用で、妻や子供たちにあまり優しくできなかったこと。いつの間にか家族は町を出て行き、自分はこの店と古い時計だけに囲まれて一人になったこと。なぜかシロを見ていると、そんな後悔が胸に浮かびました。

翌朝、シロは元気を取り戻し、庭の餌台に戻っていきました。それ以来、真一は毎日シロが来るたびに話しかけるようになりました。「今日は調子どうだ?」とか「この時計は直せたぞ」などと話し続けるうち、彼の表情は少しずつ柔らかくなりました。

春が訪れたある日、庭の木に小さな巣ができているのを見つけました。巣の中には、小さなひな鳥たちがいました。シロが母親になったのです。真一はその光景を見て、何とも言えない温かい気持ちに包まれました。

その日、真一は久しぶりに息子に手紙を書きました。「元気にしているか? 最近、毎朝小鳥と話すのが楽しい。君たちとも、またゆっくり話がしたい」。手紙をポストに投函し、ふと空を見上げると、シロが鳴きながら空高く飛び立つのが見えました。

それ以来、真一の庭はますます小鳥たちの賑やかな場所となり、時計屋には笑顔が増えました。シロの巣立ちを見守りながら、真一は「人生、やり直すのに遅すぎることはないんだな」と心の中でつぶやきました。

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浮田妃菜:「小鳥と時計屋」

浮田妃菜が趣味の短編小説を投稿します。

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投稿日:2024/12/11 22:35:09

文字数:1,125文字

カテゴリ:AI生成

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