つまらない本と神様のメモ

 昼下がりの風が木々を揺らすかすかな音。
公園で本を開いた少女は数ページで眠りに落ちてしまった。
少女の姉様は難しくて分厚い本を読めるけど、
妹の少女の方は挿絵ばかりの本でも飛ばしがちに欠伸をしている。
姉様の真似をして背伸びをする少女。
目も悪くないのに眼鏡なんかをかけて形ばかりは作ってみるけれど、
どうも読書が続かない。

 長いだけの演説がとても退屈でできているように、
長いお話も退屈ばかりが詰まっているの。
わたしの敵は退屈な日々、わたしの友は、でもね、待って。
わたしの友もそんな退屈な日々の平和な一日なのよ。
わかっているの。

少女の手から読みかけの本が、ドサリと足元に落っこちて、少女は目が覚めた。
少女は本を拾って砂を払う。

 今日のお話は何だったかしら。
どうしても文字が頭に入ってこないの。

『どんなに偉い作家であろうと
目の前の一人の心を動かせなければ失敗だと気がついた』

はらりとこんなメモ書きが払った本の間から落ちてきた。
少女はメモを読み上げた。

 そうねその通り。現実にわたしはこの本にときめきもしないし、世の中には面白い本がたくさんあると聞くけど、はやく出会っていたらよかったのかもしれない。
そんな本がどこにあるのかしら。

少女のそんな声も空が高く反響もせずに、抜けていった。
しばらくして空から歩き出した少女のおでこにペタリと、
ノートの切れ端のようなメモが貼りついた。

『そう思うのかい?それは君こそが本を描くべきなんだ!アメイジング』

そう書いてある。
少女は一瞬つまづいて目の前の視野がメモでさえぎられたせいで、体勢がよろけた。
少女は立て直して、少女はメモが身を手に取って、
つぶやこうとしたがためらった。

 あれ、これってもしかして神様のメモなの?
どちらにしても興味深いわ。


少女は周りを見渡して誰もいないのを確認すると、少し大きめの声で言った。
「あら、本は好きよ、けれども本を読むことができないわたしが本を書いたりできるはずあるでしょうか。」

すると風がふんわりと少女の後れ毛を巻きながら通り過ぎていった。
少女はその後何事もなく家路につき二枚のメモをじっと見つめていた。

✽・:..。o¢o。..:・✽・:..。o¢o。..:・✽・:..。o¢o。..:・✽・:..。o¢o。..:

 少女は大人になった。そのメモの所在ももう忘れてしまった。
つまらない本も少しは読めるようになった。勉強も嫌いではなかった。

そんなある日のこと少女はつまらない本をじっくり読むために公園のベンチに座った。
そして幼い頃のように数ページで眠りについた。
ひざから手にしていた本がドサリとまた落ちた。
彼女は目を覚まして本を拾うとはらりと落ちたメモに気づいた。

『今こそ、書くんだ、その物語を』

彼女はそのメモで幼いころの奇跡をありありと思い出すことができた。
素敵な物語読まれるだけではなく書かれるためにもあると気がついた。
そのメモは物書きへの招待状だったというわけです。

文筆の神様は誰にいつどんなふうに現れるかわからないのです。
今開こうとしている本にもはさまっているかもしれません。

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つまらない本と神様のメモ

短めの読みやすいお話です

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投稿日:2020/07/04 18:53:13

文字数:1,347文字

カテゴリ:小説

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