―私は、孤児だった。
いつ死んでもおかしくない生活。
冬だろうがボロボロの薄着、町の人々からは「汚い」と罵られ、ろくな仕事も見付からない。
でも、そんな私を救ってくれたのは―……
「おいで。私が救ってあげる」
―仙女(フェアリーゴットマザー)だった。

    *

それから数年後、私は16歳になった。
フェアリーゴットマザーは、もうすっかり実母のように親しくなっていた。孤児から一転、幸せな普通の生活。
食べ物も盗んだ物じゃない。温かいシチューも食べられる。服も、それなりの物を着れる。布団も、ダンボールなんかじゃない。
そう―全てが普通だった……今日までは。

私は、すっとその大きな建築物を見据える。
絢爛豪華、まさにその言葉を具現化したような建物は、今はより一層輝いて見えた。
私は着慣れないドレスを翻し、馬車を降りた。六頭立ての馬車だ。
真っ白なドレス。髪はドレスと同じ色のリボンでツインテール。
そして―私はドレスの上から、それを握り締めた。
フェアリーゴットマザーから与えられた使命。
(どうして…)

「……おまえは、あの城の舞踏会に潜入して、このナイフで王子を刺し殺すのよ」
―フェアリーゴットマザーは、最初からきっとそれが目的だったんだ。
私は―なんてバカだったんだろう。良家の婦人が私を快く迎え入れてくれること何てあるはずないのに。



―私は、名前の付けられない思いを胸に、城へと赴いた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

オススメ作品

クリップボードにコピーしました