女の子の人間関係は複雑である。
男には理解できないほど、大変なのだ。
私がその事を知ったのは、
小学校に上がってからだ。
幼稚園の頃はまだマシだった。
他人に合わせる必要はあまりなかったから、
割と簡単に友達が出来た。
グループ内での上下関係があるのは、
小学生の頃からで、私はそれが嫌だった。
自分の身は自分で守る。
私は、そういう女の子だった。
だから、虐めにもあった。
弱い者虐めというより、強い者虐め。
だって私は、独りでも平気だったから。
相手は、三人程のグループを作り、
私を攻撃する。
勿論、何の意味もない、くだらないやり方で。
根も葉もない噂話は当たり前、
技とじゃ無いんです系の嫌がらせ、
窃盗などの陰湿な虐めも受けた。
正直私にはどうでもよかった。
子供のイタズラとしてあしらった。
それと同時に、他人を蹴落とす事が人間の本能であるのを知っていた。
仕方がないじゃないか、
それしか人生の楽しみがないのだから。
欲を満たすためには誰かの犠牲が必要だろ?
といった感じで、相手は虐めを楽しんでいた。
虐めというより、犯罪なのだけど。
……………………………
夢を見たんだ。
白馬に乗った王子様が、私を迎えに来る夢。
「迎えに来たよ、僕らの城へ行こう」
銀髪で、容姿も整っていて、
私の全てを受け止めてくれそうな、
そんな理想通りの王子様が、
今私の目の前にいる。
勿論、夢であることは百も承知だ。
それでも、夢であろうと、
私は、自分を愛してくれる存在が欲しかった。
そして、私の前に彼が現れた。
その銀髪王子様は、私を白馬に乗せて、
ゆっくり城へと向かった。
城へ着くと、
ハンサムな執事達が入口で出迎えてくれた。
私は、一旦更衣室でお姫様ドレスに着替えてから、王子様の寝室へ向かった。
「どうしたんだい?浮かない顔して」
「毎日毎日不幸ばかりでさ、人生に疲れた」
「良ければ、話を聞こう」
私は、王子様に自分の人生を語った。
虐めの事は勿論、
家では奴隷の様に使われて、
失敗すれば殴られる事、
教師に相談したら、お前が悪いと言われた事、
携帯を壊された事、バイ菌呼ばわりされた事、
誕生日に両親が喧嘩をした事、
すれ違い様に知らない人から舌打ちされた事、
唾をかけられた事、
買いたかった物が買えなかった事、
身に覚えのない罪を着せられた事、
誰にも悩みを打ち明けられず、
誰にも頑張りを認めてもらえず、
いつも一人で泣いてばかりの毎日、
言えば言うほど、涙が溢れ出た。
「引き寄せの法則って言うけどさ、
愛も知らずに育った子供とか、
幸福を知らずに大人になった人は、
ポジティブ思考になる術を知らない人達は、
外からのご縁とか、
神からの御加護とかも受けられないって事?」
「そうだね。
大丈夫じゃない状況で、
大丈夫だって思うのは難しい。
かといって、外からの助けがなきゃ、
ずっとそのまま」
「それって、酷い話じゃない?
人生不幸ばかりだと、
神から嫌われてるって思ってしまう」
「どんな状況でも幸せだって思えるほど、
人は器用じゃない」
「神は私達を幸せにしたいんじゃないの?
なのにどうしていつも酷い事ばかり起きるの?」
「物は言いよう、どんな理不尽も不条理も、
神に言わせれば全部試練でしかない。
君のいる世界は神の言葉が絶対で、
神の都合でどうにでも変えられるし、
どうにでも解釈できる。
神が人は滅ぶべきだと言えば、
それが正しいという事になる」
「もう死のうかな?」
「いいと思うよ、君が望むのなら。
だって君の体は、君の心は、君の物なのだから」
「主を間違えるなって事?」
「そういう事」
とはいえ、私に自分を殺める勇気はない。
情けない話だが、心のどこかでは生きたいと駄々を捏ねているのかもしれない。
「君が望むのなら、ずっと此処に居てもいい」
「そうしたいけど、
夢であることくらい分かってるから、
ずっと此処には居られないと思う」
「現実が嫌なんじゃないの?」
「それは、そうだけど…」
「ねぇ、代わってあげようか?」
「え?」
「本当に辛い時は、
僕が君の代わりになってあげる」
「代わるって、どうやって?」
「それは、内緒」
………………………………………
いつも通りの朝が来た。
顔を洗い、歯を磨き、身支度を済ませ、
朝食を食べずに登校する。
学校へ行けば、
いつものように虐めてくる奴らが、
私をからかい、私で遊ぶ。
反抗する気力も失った私は、
彼女達の思うがままに遊ばれる。
そう、これは遊び。
彼女達にとっては、ただのゲームだ。
積み木を壊したり、直したりする幼児と同じだ。
今日された事は、飲もうとした薬を捨てられ、
トイレから出たら唾をかけられ、
返ってきたテストの答案用紙を破られ、
給食に虫の死骸を入れられ…
もう…もう嫌だ…
もう…嫌だよ…
「本当に辛い時は、
僕が君の代わりになってあげる」
私はふと、夢で会った王子様の言葉を思い出す。
勿論、そんな事出来るはずもないことくらい、
私自身が一番よく知っている。
理想は理想でしかない。
夢は夢で終わるのだ。
虐めグループのリーダーが、私を勢いよく押し倒す。
やられる。
また、殴られる。
そう思った瞬間、私は気を失った。
そして気がついた時には、
相手が血を垂れ流して倒れていた。
私が殺したのか?
私の右手には、学校で使う血に染ったハサミがある。
ハサミを見つめていると、視界が徐々に歪んでいく。
私は、咄嗟にその場から逃げ出す。
どんな事情があれど、
世間から咎められるのは私一人。
私を苦しめた本人は、可哀想だと憐れみの言葉をかけられるのだろう。
あぁ、もう嫌だ。
もう、死にたい。
こんな、なんの面白味もないクソな世界なんて、
壊れてしまえばいい。
みんなみんな、消えてしまえばいい。
神も仏も要らない。
宇宙の誕生も、アダムもイブも、神の始まりも、
全てが無かった事に…
そうすれば、
誰も苦しむこと無く、誰も恨みを抱くことなく、
そして、こんな事にも…
私が向かった先は、人気のない森の奥。
森を抜けると、高さが数十メートルの崖がある。
私は、その崖から身を乗り出し、
海に向かって飛び降りた。
……………………………………
「おはよう、随分と魘されていたけど、
何かあったのかい?」
「私、人を殺しちゃった…」
「あの虐めっ子を殺したのは僕だよ」
「え?」
「言ったでしょ?本当に辛い時は、
代わりになってあげるって」
そうは言っても、私が殺した事には変わりない。
少なくとも、世間ではそういう事になっている。
今更、後悔しても遅いんだ。
「私、これからどうすれば…」
「ずっとここに居ていいんだよ。
何故なら此処は、君の世界なのだから」
王子様はそう言って、私の唇に甘いキスをした。
もう、現実なんてどうでもいい。
私はずっとこのままでいたい。
この世界で、目の前にいる王子様と愛を育み、
そして消えるのだ。


END

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

花言葉(椿)

閲覧数:41

投稿日:2023/02/09 13:36:41

文字数:2,880文字

カテゴリ:小説

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