「――そうか」
 一人でつぶやいた。
 本を開き、ぶつぶつと何か言いながら、レンは帰路についていた。開いている本は、図書館で借りてきた本である。わざわざ学校の図書室よりもほんの種類が多い図書館まで行って借りてきたのだから、これで何も収穫がなければ、レンはこの本をマンホールの中に落としてやろう、と思っていた。
 本を開いてちゃんと読みながらも、レンはその内容とは違うことも考えていた。
 いったい、どちらが嘘をついているのか――。
 ずっとそう考えていたが、レンはふと気づいた。『どちらかが嘘をついている』とは限らないのではないか。同時に、『どちらかが嘘をついていない』とも言い切れないのではないか…。先ほどの「そうか」は、そういう意味で発した言葉であった。
 少しだけわかってきたような、わからないような、微妙な心境。
 それがわかると同時に、いやな予感がレンの脳裏をよぎり――いや、この表現は適当ではない。正しくは、『いやな予感しかしなかった』。次第に、わかってきたのだ。事の重大さが…。
 ふと、レンは顔を上げた。すぐ目の前に館がある。
 ルカの部屋のカーテンがかかっているのが、目に付いたのである。いつもなら、まだルカは夕食の準備の途中だろうから、カーテンなんてかかっていないはずなのだが…。まあ、かえって聞いてみればいい。ルカにも気まぐれと言うものがあるのだろう。
 そう、安易に考え、レンは館のドアを開けたのだった。
「ただいま」

「――あら」
 部屋から出て来たルカは、少し驚いたように言った。
「なんだよ」
 言ったのは、ルカの分の夕飯を持ってきた、レンである。
「いえ、てっきりリン様か主が持ってきてくださるものとばかり…」
「多分、リンたちもそのつもりだったろうな。…入っても?」
「いいですわよ。何もおもてなし出来ませんけど」
「十分元気じゃねぇか」
 冗談を言って軽く笑えるほど、ルカは気分がよくなっていた。いや、勿論、まだずいぶん体はだるいし、体も妙に熱っぽい。それでも、ルカの性格からして、弱いところを見せないようにしているのだろう。
 レンが中に入って小さなちゃぶ台ほどのテーブルに夕飯を置くと、ルカは椅子に座るように促した。
「大丈夫か?」
「ええ、ずいぶん気分はよくなりました」
「そっか。なら、いいんだけど」
「あら、レンが私を心配してくれるなんて、珍しいですわ。嵐でもくるんじゃありません?」
「悪かったな。どうせ俺はあくまですからぁ、他人の心配なんてできませんよぉ」
 ふてくされたようにいい、レンはそっぽを向いた。それをみて、ルカはくすくすと笑った。
 それから急に真顔になって、
「それで、何か用でもあったんじゃありません?」
 すると、レンも真顔になって声を低くした。
「ああ。ちょっと、気になって…」
 ルカは箸を手に取り、サラダに手を伸ばした。
「私で相談相手になるのなら」
「あのさ…」
 真剣に話を始めたレンの声と、ルカがサラダを食べる、シャキシャキと言う音だけが、部屋に響いていた。
 なんだか、間の抜けた雰囲気だった…。

 部屋の中で、ミキはそっと本を開いた。この館にやってきたときに持っていた小さな荷物の中に押し込んであった、古びた魔法書である。
 ぱらぱらとページをめくり、一ページ丸々使って大きな魔法陣が描かれているページを開くと、その魔方陣に手を置いて、目を閉じる。ぶつぶつと呪文を唱える…。ふわり、怪しげな光が魔方陣から浮かび上がり、次第にそれは形を成し、やがてまるで黒いマリのような不思議な生き物となった。
 黒くて丸い体に、矢印の形をした尻尾、こうもりのような大きな羽、大きい目がひとつ、どんっとついていて、その下に気持ち悪く笑うように葉を見せ、口がある…。それは、レンなんかよりもずっと悪魔のように見えた。
 窓を開き、それを夜の闇の中に放り出すようにした。すると黒いまり上のそれは羽を磯かしぐ羽ばたかせ、闇の中に溶け込んでいった…。

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  • 作者の氏名を表示して下さい

鏡の悪魔Ⅴ 18

こんばんは、リオンです。
今日はさらに盛大に 大 遅 刻 ☆
三木ちゃん、そろそろ本性出すころかな…?
今日(もう昨日か)、終業式でした! 夏休みだよ!
部活? 夏期講習? 夏祭り? どうでもいい!
私はパソコンがある!!(うるさい黙れ
もっと人生経験をつまねばいい作品は作れないのに…。
精進しまっす!!

閲覧数:229

投稿日:2010/07/24 00:59:09

文字数:1,657文字

カテゴリ:小説

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