サケが戻るころだったので、澄兵衛は川に近い村へもらいにいった。
むせ返るくらいにあちこちから香ってくる料理のいい匂い、遠くから聞こえる川音。
山を越えてきた彼は顔を上げ、風景に浸る。
汗をかいた体に風が当たり、心地よかった。
が、奥からドドドッと聞こえてきた音によってすべては壊された。
子どもから老人まで、野菜を持った人の塊が押し寄せてくる。
暑苦しい熱気に飲まれ、一気に現実へ戻った。
「…何だ今のは?」
後を追いかけると大きな物陰に、人の塊が集まっていた。
先ほどとは打って変わって、ほとんど動かずに押し黙っていた。
集まっていた視線の先を見た途端、澄兵衛は「ひゃぁ」と声を漏らす。
徳の高そうな坊主でも村長でもなく、熊だったのだ。
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