「誰だお前…」
『お前こそ誰だよ』と返ってくるだろうと思い京助は名乗るスタンバイをしていた
そこにいたのは愛しの弁当箱…じゃない悠助ではなく何とも不可思議な格好をした一人の少年(?)だった
間をおいても『お前こそ誰だよ』がこなかったので京助はとりあえず悠助のことを聞いてみることにした
「なぁ、青い弁当箱持ってるやつ見なかったか?」
「…栄野…京助」
「はぃ?」
いきなり唐突に名前を呼ばれて上ずった返事をしてしまった
少年はふっと微笑むとゆっくり近づいてきた
「えと…どっかであったっけ? 演劇部のヤツか?」
懸命に思い出そうとしていると少年が更に近づいてきた
「栄野京助」
「な…」
ついには今にもキッス(昔表現)ができそうなくらいまで顔を近づけてきた
「きゃー!! 健全なる青少年育成の場でなんということでしょう!!」
京助の後を(面白そうだから)追ってきた南が声を上げた
「お前…いくら綺麗でも可愛くても男に手ェだすなよ…」
「ハルミさん…かなしむだろうなぁ…息子がホモだなんて…」
中島、坂田も後に続き口を挟む
「ちが…; これはっ;!!」
少年の肩を掴み引き離す
「栄野京助」
少年が京助の手を振り払い再び名前を呼ぶ
「何なんだよお前ッ!! 俺に何の用なんだっての!!」
坂田達のいる位置まで下がると京助は食って掛かるように少年に問いかけた
少年はまたふっと笑った
「お前…明らかに小馬鹿にされているな」
「るっさいッ!!;」
坂田が同情の目で見つつ京助の肩に手を乗せた
「なぁ京助…お前演劇部か劇団四季に知合いいたのか?」
南の問いかけに京助は首を大きく横に振った
「じゃあ中国雑技団かキダムには?」
「はぁ? いるわけねー…」
中島のふざけている問いかけに『いるわけねーじゃん!』と返そうとして何気に少年の方を見ると少年は玄関前に建っている旗棒(高さ30m位)のてっぺんに立っていた
「ありえねー…」
4人は口をそろえてハモった
「我は緊那羅(きんなら)!! 栄野京助! 上の命によりお前が護るべき者か滅する者かこの緊那羅が判断するっちゃ!!」
「…ちゃ?」
おそらく、いや絶対4人は同じことが脳裏に浮かんだであろう
「ちゃ、だってさ」
「好きよ好きよ好きよ うっふん だな」
「だーりーん だな」
「トラビキニだな」
(多分)危機に立たされているのだろうが今はあんまりソワソワしないで~というかソワソワどころかむしろ笑いたくてムズムズしている4人であった
玄関先から4人の笑いのトルネードが発生したのはそれから間もなくの事だった
「何がおかしいっちゃッ!!;」
笑いまくる4人にキレた緊那羅
笑い声にまぎれて聞こえてくる腹の虫の声
そして更にその中から聞こえた…
「きょぉすけー」
という声と明らかに何かを振り回して落とした音
そのどちらかに各々が反応して振り返る
目に入ったのはうつ伏せに倒れている悠助と二匹の犬、そして待ちに待った愛しの弁当箱だった
「…悠?;」
なかなか起き上がらない悠助に比較的遠くから京助が声をかける
するとどんぐり眼に涙を溜めて泣くのを懸命に我慢しながら悠助が顔を上げた
「ほーら悠! 泣かない泣かない!!もう一年生なんだろー? 痛くないぞー痛くない痛くない」
「そうそう! えらいぞー! 泣かなかったらもっとえらいぞー!!」
「一年生だもんなー 一人で立てるもんなー?」
南、中島、坂田の三人があやすと悠助は鼻水を啜って立ち上がった
「いたくないもん…僕泣かないもん…いたくないもん」
ぐしぐししながら弁当箱を拾うと京助の方に向かって歩き出した
そして京助に辿りつくと足にしがみついた
「よーしよく我慢した! えらいぞ悠!」
三人から拍手が巻き起こる
「そこ!! 無視するなっちゃッ!!」
すっかり忘れ去られていた緊那羅がついに突っ込んだ
「あぁ! ラムちゃん!! いたことすっかり忘れていた」
「ラムってだれだっちゃッ!!」
悠助の頭を撫でながら『スマンスマン』と謝るしぐさをした
「お前ら…私を馬鹿にしてるっちゃね」
「え? そんな格好してお前が馬鹿じゃなかったんか?」
南が突っ込んだその時だった
緊那羅が両足につけていた棒のようなものを両手に持つとくるくると回し
「…そこの4人…覚悟するっちゃーー!!」
高さ30mの旗棒の上から京助達めがけて飛び降りてきた
「でぇぇぇー!!!?;」
間一髪攻撃をよけた(っぽい)京助達は逃げるが勝ちというように一目散に走りだした
「逃がすかぁっ!!」
緊那羅は体勢を立て直すと後を追った
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