あれから【MEM】研究所は霊薬の開発全面中止と、その破棄を公表した。【Yggdrasil】の元完成された治療薬は、瞬く間にBSを消して行った。勿論直ぐにはこの事態は収束しないだろう。霊薬を使う人も、治療薬を待つ人も大勢居る。調べていて判った事だが、治療薬は霊薬に対して免疫を作り、霊薬を再び使う事は出来なくなるらしい。BSが治った人間は、大きな怪我や病気をしたら等しく死ぬ。だけどそれでも良いと思った。だって、元々命はそう言う物だから。一つしか無いから、それを必死で守って生きる物だから。そう…ただ元に戻っただけ…それだけの話…。

「…っかしーなー…あ！スズミ！騎士見なかった？さっきから全然…見付から…。」
「啓輔さん、しーっ！静かに…。」
「すぅ…すぅ…すぅ…。」
「…膝枕でお昼寝ですか…うりうりうり。」
「もぉっ、駄目っ！昨日だって遅く迄仕事してたんだから。」
「あーあー…安心し切った顔しちゃって、ったく…。」

騎士よりも少し早く目を覚ました私は、一度に戻った記憶に少し混乱していた。その時は啓輔さんに対しても複雑な思いが残っていたけど…。

「啓輔さん。」
「ん？」
「騎士を助けてくれてありがとう。」
「…うん…。」

あの時【Yggdrasil】に戻る車内で、騎士の容態が急変した。最低限の設備しか無い搬送車では治療出来なかったと言っていた。だけど啓輔さんが私達を抱えて空を飛んで運んでくれた。爆発の時の怪我がまだ治って無くて、実は啓輔さんも無理してた、なんて事は随分後で聞いた。

「あ、そうそう、今度さ、律が母親連れて来るって。」
「律さんの？それって…。」
「うん…ちっちゃい時離婚して再婚したって言う、騎士の母親。剣一おじさんもさ、
　会ってやって欲しいって頼んだみたい。」
「そっか…。」
「騎士喜んでたぞ～？お前の事も紹介したいって。も、目じり下がりっ放しでさ。」
「えぇっ?!…もぉ…。」
「ま、良いんじゃない？ずーっと待ってたんだし。」

騎士はあれ以来、律さんと翡翠さんとの共同研究の下、自分のBSの治療を始めた。血清の成分を強くしないといけないとかで直ぐには無理みたいだけど、それでも発作は目に見えて減って楽になってると言ってた。

「そんじゃ、お邪魔な俺は退散、退散。」
「あ、用事は…。」
「もーちょっと寝かしてやって。」

ドアが閉まると同時に、騎士が目を開けた。

「んー…。」
「あ、起きちゃった…？」
「…ん…夢…見てた。」
「夢？どんな夢？」
「スズミが真っ白なドレスで隣に立ってる夢…。」
「え…っ？」
「正夢になんないかな？」
「…なるよ…絶対…。」
「そっか…ならすっげー楽しみ…。」
「騎士…。」
「ん？」

今なら私、心から言えるよ…騎士。

「愛してる…。」
「ん…俺も…ずっとずっと…愛してるよ。」