~第五幕~ 悪の娘
期待の中産まれた私たち。
祝福するのは教会の鐘。
大人たちの勝手な都合で、二つに裂けた二人の未来。
五歳の時に私は王女に、弟は殺された。
五歳からの私は、まるで今までのような性格が嘘だったかのように変わっていた。
お金が足りないなら奪い取る。
反逆者には罰として殺す。
そんな私の口癖が
「さぁ、ひざまずきなさい。」
私が私の死んだと思っていた弟に会えたのは十三歳の時。
弟が私の召使になったという。
「王女様、僕があなたの召使になるレンと申します。」
はじめてこの名を聞いた時、この子は私の弟だということに気がついた。
けれども、私は大臣に弟の話にふれることを禁じられていた。
その人は私に、
お金が足りないなら奪うこと。
反逆者には罰を与えることを、教えてくれた人だ。
「まさかね。」
と、小さくつぶやいた。
私たちが離れ離れになったのは、五歳の時。
だから私はレンのことを覚えていた。
レンは私のことを覚えているのだろうか?
「王女様、今日のおやつはブリオッシュです。」
レンが私の前にブリオッシュを出す。
レンは小さなころからお菓子などを作るのが好きだった。
そんなレンが初めて作ったのがブリオッシュ。
そして一番最初に食べさせてもらったのが私。
ブリオッシュを口へはこぶ。
それはまさに、昔のレンが作ったブリオッシュと同じ味だった。
「レン。」
「何でしょう。」
私は弟の話にふれてはいけないという禁則?を破った。
「私とずっといなさい。あと、ため口で話してほしいな・・・・・・・。私にさ、5歳まで弟がいたの。弟の名が「レン」。あなたと一緒だったの。でも五歳の時に私はここへ、レンは・・・弟は殺されたって聞いてたの。でもあなた、レンは私と同じ年で、しかも私の弟と同じ名だったから、レンが生きてたのかなって・・・・違うよね?」
私はこういってレンに笑いかけた。
私が王女になってから初めての笑顔だったという。
私がレンと隣の国へ出かけた時に、その街で見かけた美しい緑の髪の少女。
その少女を切なく見つめているレンに、私は気がついた。
城に戻ると数日間の間、私は悩み続けた。
レンの幸せを望むから、二人で逃げてくれたらと思った。
でも、素直に言うことができない。
ならば私は、
「レン。」
「何でしょう。」
「緑の国を滅ぼしなさい。」
わざとひどい命令を告げる。
さすがにレンも緑の国を滅ぼすことはないだろう。
レンとあの子は惹かれあっているのだから・・・。
私は夜空を見上げる。
今頃二人は何処まで逃げてくれたのだろう?
私はそう思っていた。
手の上に何かが落ちる。
水だ。
雨は降っていなかった。
何処からだろうと思っていると、自分の目から流れていることに気がついた。
私はレンの幸せを望んでいるのに・・・どうして?涙が止まらないよ・・・。
「王女様、お茶にしましょう。」
大臣が私の後ろから声をかけてきた。
大臣は私に小さなころからいろんなことを教えてもらっていた人だ。
「お金が足りないなら奪うこと」
「反逆者には罰を与えること」を教えてくれたのも大臣だった
私は涙を拭いて、
「あら、がくぽ。珍しいわね。」
と言う。
「がくぽ」というのが大臣の名前だ。
「いえ、王女様が悲しそうに夜空を見ていましたので。どうかしました?私に話せることですか?。」
私は大きく首を振る。
「そうですか。そういえば、あの召使がたくさんの兵士を貸してくれと頼みに来ましたが、
何かご命令でも?」
「え!?」
「はい?」
思わず叫んでしまった。
「レンに兵士を貸したの?」
「えぇ・・」
なんてことだ。
レンは本当に緑の国を滅ぼしに行ったのだ。
「なんてことをしてくれるのよ!がくぽはこの城から出てゆきなさい!」
私は大声で叫ぶ。
どうしてレンは、素直に私の命令に従うの?
心の中で何度も何度も聞いていた。
数日後のお昼過ぎ、レンが帰ってきた。
血まみれの服を着て・・・。
さっきまで泣いていたのだろうか、顔が赤い。
「驚かせてすみません。ご命令どうり、緑の国を滅ぼしてまいりました。すぐにおやつの用意をいたしますのでお待ちください。
レンはこう言うと部屋を出た。
まさか、本当に緑の国を滅ぼしなんて・・・。
私はレンの部屋に向かった。
服は着替えていた。
が、枕を顔にあてて、声を殺して泣いていた。
ごめんなさい。素直に言えばよかったのに・・・。
私はレンに心から謝罪した。
玉座へ戻る。
数分後にはレンが笑顔でブリオッシュを持ってきた。
「今日のおやつはブリオッシュだよ。」
せめてレンへと無邪気に笑おう。
こんな時間もつかの間、いつかは来ると思っていた出来事が起きた。
外を見ると、怒りにわいた国民たちが城にむけて迫ってくる。
これが報いだと言うのならば、それを私が受け入れましょう。
「レン、城の者を集めなさい。」
「はい。」
数分後には、兵士以外、全員集まった。
「これが私最後の命令だ。城の者は逃げよ!」
数分がたった。
城には私と兵士以外はいなくなった。
きっとレンも逃げてくれただろう。
レンには幸せになってほしい。
ドアが開く音がする。
ドアのところに立っていたのは…
「レン!何をしているの!早く逃げなさい!」
私と同じ服を着たレンが立っていた。
「いいえ。逃げません。王女様が逃げてください。ほら、僕の服を貸してあげる。これを着てお逃げなさい。」
何を言っているの?
罪を負うべきなのは私なのに。
「大丈夫。僕らは双子だよ。誰にもわからないさ。」
なんで?
私はレンに幸せになってほしい。
とっさにレンの手をつかむ。
「王女様……。あなたはいつもどこかで笑っていてください。世界の全てがあなたの敵になろうとも、僕だけがあなたの味方です。」
「っでも」
笑っていられる資格などない。
レンは私の手を振り解き
「この、無礼者!」
と言いながら私を部屋から出してドアを閉めた。
レンの固い決心。ならば私はレンに従おう。
「……レン……。」
私は廊下を走り出した。
廊下ですれ違う赤い鎧の女剣士と青の王子。
まさかレンは死ぬ気なのでは?。
さっきの部屋に急いで戻ると、レンの首には刃が光っている。
「この、無礼者!」
私が部屋に入ろうとしたのがわかったのか、レンが言う。
そして、私にしかわからないように微笑んだ。
剣が落ちる音がすると同時に
「この、悪魔!」
青の王子が言う。
同じ血が流れているからって、レンまで悪魔にならないで。
わたしはその場を離れた。
処刑の時間は、午後三時の教会の鐘がなる時間。
その時はついにやってきた。
私は民衆の中に混じってレンを見ていた。
たとえ世界の全てが、敵に回ったとしても、
レンがそばにいてくれたら、私はきっと笑えたのに。
青の王子と赤い鎧の女剣士が同時に剣を振り下ろす。
私は悲鳴を上げてしゃがみこむ。
だが悲鳴は誰にも聞こえない。
民衆が大声で喜んでいるからだ。
顔を上げると、青の王子が涙を一粒光らせたところだった。
その日の晩。
私は、街外れの小さな港で一人、たたずんでいた。
レンから聞いた、この海に昔からあるひそかな言い伝え。
「願いを書いた羊皮紙を小瓶に入れて海に流すと、いつの日か想いはみのるでしょう。」
ガラスの小瓶を海へと流す。
ガラスの小瓶に入れた、願いをこめて書いたメッセージ。
水平線のかなたに静かに消えてゆく。
レンはいつも私のために悩んでくれたのに、私はいつもわがままばかり。
願いをかなえてくれる君はもういない。
だからこの海に私の想いを届けてもらうの。
流れてゆくメッセージ。
私の小さなメッセージ。
「もしも生まれ変われるならば
。」
その日以来、私は毎日のようにこの港へ行くようになった。
「悪の娘」は、本当は悲しいお話なのでしょう。
けれども、
悪の娘を操っていた者がいたのです。
その者は、リンに
「お金が足りないなら奪うこと。」
「反逆者には罰を与えること。」
を、教えた人。
そう、大臣だったのです。
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