「あたしはそのお話、敢えて胸中に収めずこの場で一切を吐き出させていただくわ」
「!」
「総理ご本人の悲願か目標か、もしくはその先にある、もっと大きな未来の、日本国の幸せか。総理が何をお考えか私は存じ上げません。それでも、今目の前で反戦を叫ぶ学徒達の、若者の、ひいては国民の悲痛なる声を、あたしはその身に受けて今を戦っている。あたしは今を生きているのよ。暴君の今が私の今と交わるのであれば、どちらかが運命の斥力に負けてその道を譲るまで、あたしは戦う。それ以外のどんな選択も、あたしの全てを踏みにじるわ」
「…!」
「失礼。これからまた都内の各大学にお伺いしなければなりませんので」
「お待ちを、美紅様」
「あぁ、今日は何かと予定がずれ込む日だわ、急がなくちゃ。ここから三田に下りて一件、それから古川橋から明治通りをぐるりと回る予定が、帰るのが大分遅くなりそう。では御機嫌よう、藤山大臣。岸信総理によろしくお伝えくださいませ」

「…行ってしまわれた。美紅様もああして感情をむき出しにされる方でしたでしょうか。珍しい」
「桜軍服とは、もう少し胸襟を開いて話が出来る方かと思っていたのですが、学連をまとめようが一介の若人には変わりなきか」
「いえ、しかしてそうでもありませんよ」
「…?」
「一切を吐き出すといったのは、それそのままの意味でしょう」
「此処で全てを吐き出すことで、学連の者には伝えないと?」
「おそらく。相手もまた日本国の人間であることを、美紅様は御理解していらっしゃる。あなたは、そして総理は、それと同じことを同じように理解しておいででしたか?」
「惠巳様の仰る事、それそのものが間違いではないことも、自分自身解ってはいるのです」
「えぇ、そして美紅様も然り」
「全く理解できないと否定するわけでもない、そんな様子でしたね」
「まぁ、そんな所でしょう。あるいは」
「あるいは?」
「同属嫌悪、とでも言うのでしょうか。主張こそ正義的でしたが、その表情は正義よりも仁義を主張しているようでしたよ、半ば同情気味に」
「…!」
「願わくば」
「えぇ、願わくば」

 彼女がいつか、良き理解者となってくれるなら。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【九項目】二次創作小説『近代歌姫浪漫譚 千本桜 ~学徒が華ぞ咲きにける~』【胡蜂秋】

黒うさP『千本桜』の自己解釈・二次創作小説です。

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閲覧数:160

投稿日:2012/07/28 19:39:27

文字数:908文字

カテゴリ:小説

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