電話を切ってから一呼吸置いて、それからまたソファに座った。
「電話誰から?」
「幾徒様です。全く困った人ですね…随分と懐かしい物を掘り返してしまって…。」
「あははは、血は争えないって事じゃない?」
やれやれと言った顔でメモを手に取るとサラサラと何かを書き始めた。
「…凄く今更な質問して良い?」
「何ですか?」
「あの時さ、どうして施設を残したのかな?居住区はともかくとして中枢部はてっきり
ぶっ壊しちゃうと思ってたけど。」
「さぁ…私にも解り兼ねます。――ただ…。」
「ただ?」
「『いつか』必要になると思っていました。それと同時に『いつか』が来ない事も私は
願っていたんですけどね。」
そうポツリと呟いて手を止めると、溜息を吐きながら少し辛そうに目を伏せた。何かしら思う所があるんだろう、それは勿論俺自身も同じだった。上手く言葉が出なくて重苦しい空気が辺りに立ち込めているみたいだった。と、それを掻き消す様に勢い良くリビングのドアが開いた。
「ただいまー!」
「ただいま…あれ?ノアさん!お久し振りです。」
「あ!ほんとだノアさん!こんばんは~!」
「月!星!脱いだコートを放り出して置くなと何度も…!」
「わわっ?!すぐ片付けます!」
「細かいんだから…。」
「聞こえてますよ?」
「はーい!」
バタバタと忙しなく足音を響かせて逃げる様に二人がリビングを後にした。堪え切れずに思わず吹き出した。
「…ぷっ…!あはははは!二人共大きくなったね~お母さんそっくり!翡翠もすっかり
お父さんだよね~あっはっはっは!」
「ゴホン!…い、今のはたまたまです…。」
少し赤い顔で咳払いをした顔見て、可笑しくなると同時に凄く穏やかな気持ちになった。
「ねぇ、翡翠。」
「…何ですか?」
「書いてたの、パスワードと解除キーだよね?あの場所の。」
「ええ…それが何か?」
「それさ、月と星に任せてみない?」
「なっ…?!何を言ってるんですか!あの施設はおいそれと報せて良い物では…!」
「大丈夫だって、今の翡翠見て確信した。幾徒様だってあの二人の息子だよ?絶対
大丈夫!」
「しかしですね…。」
「月君ー!星君ー!ちょっと頼みたい事があるんだけどー!」
「ノア?!」
あの時とは違う、くるくる表情が変わる翡翠の声が何だか嬉しいと思った。
「はーい…あの…頼みたい事って?」
「勇者様一行を秘密基地へのご案内~♪」
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