寒い、空から降る白い粒がそれを更に引き立てているようだった。
眼鏡をかけている分、雪が降っていても目に入ってくることがないのはありがたい。けれどいつもよりもレンズが曇ってしまう気がして眼鏡に手をかける。
朝は「帰りに駅でクレープでも食べようかな」と思っていたけれど。視界の端に映る眼鏡をつまむ赤い指先、これはもう温まるまで上手く使えないんだろうな、なんて考えてみる。
そんな風にゆっくりと歩いていると、帰りに乗るはずのバスが目の前を通過していく。…行ってしまった。
まあ、いい。こんな手ではバス料金も上手く出せやしないだろうし、そんなに距離がある訳でもない。今日くらいは歩いて帰ろう。

歩きながら、ふと自分の吐く息に目がとまる。今日は一段と白い気がする、これなら眼鏡も曇ってしまうだろうと思うとふふふ、と笑ってしまう。雪の降る日は、他に歩いている人も少ないから変な目で見られることもないから安心だ。
と、前を見れば信号は赤。慌てて少し後ろに下がって誘導ブロックの後ろで止まる。雪が積もっていれば車もいつもより安全運転を心がけているみたいだからそんなに危ない訳でもなさそうだけれど、一応車道から離れてみる。
周りを見渡せば、景色自体全て違うものに見えてくる。いつもバスで帰るから、というのも理由だろうが一番の理由はやっぱり雪が積もっているからだ。これが「趣(おもむき)がある」ってやつだろう、国語はよくわからないけれど。
田舎の方は田畑が真っ白になっているんだろうな。この時期におじいちゃんおばあちゃんの家に帰ったことはないからわからないんだけれど。
真っ白に輝く歩道、車道はやっぱり歩道よりも雪はとけているけれど。これ以上寒くなったら凍るんだろうな、と思いながら青になった信号を見て横断歩道を渡った。さすがに手を上げて渡ることはもうしない。
そしてそのまま狭い歩道を歩いていると、何人かの男性が木に何かをしているのが見えた。何事かと思ってみてみれば、手に持っているのは電球のついた紐のようなもの。ライトアップ用に準備しているのだろう。
冬になるとみんな賑やかになるのだな、なんてふと笑みを浮かべてそれを通り過ぎた。

駅に近づくと歩道や道路も広がり、やはり人も増える。歩道の雪もさっきの道よりもとけているように思えた。
そんな広い歩道の隅は、やはり少しだけ雪がきれいだ。意識しない皆は歩道の中心を通っていくため、隅っこの方は少しだけ雪が残るのだ。
そんな残った雪の中に、小さな足跡を見つける。小学生、いや、保育園くらいの子だろうか、やはり小さな子は雪を好むのだろう。母親に手を引かれて歩く子供を想像して、自分もうれしくなる。
その子の足跡を自分も辿って歩いてみる。やはり小さな歩幅は自分に合わなくて途中でやめてしまうのだけれど。

駅へ向かう最後の横断歩道で、ふと立ち並ぶ木々を見て先ほどのライトアップ準備をしていた人たちを思い出す。素肌の見えた木々そのままも雪が覆っていていいのだけれど、と歩道でとまる。信号待ちの数はやはり駅が近いだけあって多い気がした。
この夕方の時間は家へ帰る人が多い。我先にと足早に帰る人もいれば、友人や家族と並んで帰る人もいる。皆、帰る家あっての帰り道だ。ほっこりと心温まる雰囲気が、ここにはある気がした。

そのときに電話が鳴る。周りの音も大きくてあまり気づかなかったけれど、自分の携帯だ。
通話ボタンを押せば、懐かしい声。大分前に引っ越して久しい友人からの着信だった。
他愛ない会話、その中で彼は雪の話を始めた。
「そっちは雪が降っているんだって?いいなあ、こっちは今年もあまり降らないみたいだ」
雪国生まれの彼にはどうも雪が降らないことに文句があるようだ。いつもは大人ぶってみせる彼も、この季節にはどうも子供っぽくなる気がする。笑ってしまえば彼は怒るだろうか。
それでもクスクスと笑いながら言ってやる。

「帰っておいでよ、雪の国へ」

彼が素直にうなずいたことに、また笑顔になった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

雪の花畑 雪の国

紅空さんの書かれた歌詞「雪の花畑 雪の国」を文章化してみました
主人公にミクの欠片が無いように思えますが、紅空さんの方で「初音ミク」と指定されていますので一応タグはミクにしておきます
久しい友人はきっとKAITO辺りではないかと、兄は遠い親戚へと変わりました←

紅空さんからは既に直接許可をいただいております故、載せさせていただいています

閲覧数:93

投稿日:2010/02/08 20:16:12

文字数:1,660文字

カテゴリ:小説

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