それから私達は何やら判らない内に色んな打ち合わせに終われる日が続いた。いきなり特撮やるなんて言われて何したら良いのか判らなかったけど、言魂の力でアクションヒーローみたいな動きが出来る様になるから問題は無いみたい。何度目かの打ち合わせで流石に疲れた私は休憩室のソファに深く座った。灰色の天井をただぼんやり見詰めて、溜息も出なくて、ゆっくり目を瞑った。
「大丈夫…だよね…?」
拭えない不安がどうしても心を曇らせた。どんなにしっかり手を繋いでも、流船が目の前で消えた光景が頭にこびり付いて離れなかった。何度も夢に見ては夜中に飛び起きて、涙が止まらない事もあった。どうしてこんなに弱くなっちゃったんだろう?前の私はもっと割り切ってた。白黒ははっきりしてて、一人でも全然平気で、悪い事があっても引き摺る事なんか無かった。なのに…。
「どう言う事だよ?!そんな事して流船大丈夫なのか?!」
「声大きいよ、クロアさん。」
「それにしたってさ…あの眼鏡野郎あんまりじゃないのか?何でもかんでも押し付けてさ…。」
「幾徒はちゃんと考えてるよ、その上で文字化けの器になるのは俺しか居ないって
結論に至ったんだと思うし、実際俺も適任だと思うし。」
流船の言葉にサーッと体温が下がって行った。文字化けの器…?どう言う事…?今度の作戦は一所に文字化けを集めて、それを『最適合者』が消すって言ってたよね?じゃあ器って…!指先まで震えが止まらなかった。飛び出して行って流船に聞きたい事が一杯湧き上がったけど声が出なかった。混乱してたのも勿論だけど、何よりもまず不安と恐怖が私を支配した。
「俺やっぱ言って来るよ、ほら、純だっけ?あいつみたいにおかしくなったらどうするんだよ?」
「大丈夫。」
「根拠でもあんのか?」
「んー…色々あると言えばある様な…でも、約束したから。」
「約束?」
「うん…芽結と。」
不意に出て来た私の名前にドキンと心臓が跳ねた。
「もう消えないって…芽結を一人にしないって約束したから…だから大丈夫。」
一瞬本当に体に火が点いたかと思った。息すら出来なくて、立ち上がろうとした足は見事にもつれて、そのまま私は盛大な音を立ててソファから転げ落ちていた。
「がっしゃーんごろごろ…で、真っ赤な芽結ちゃん…。んーと…良し!俺部屋に戻る!じゃっ!」
「え、ちょ…クロアさ…?!」
クロアさんがスタスタと歩いて行くのが見えた。自分でも判る位真っ赤になった顔を上げられなくて、不安や恐怖も入り混じって涙が零れそうになった。何か言わなきゃ…何か…何か…!
「そんなに怖い?」
「…っ!…うん…。」
「じゃあ泣いてよ。」
「え…?」
「俺の為だけに泣いて、俺の為だけに笑って、俺の為だけに怒って、俺だけ見て、
苦しいのも、楽しいのも、怖いのも、芽結の全部俺に頂戴?」
「る…流船…?!」
「返事は?」
「は…はい!…んっ…?!」
噛み付く様なキスだった。不安が完全に消えた訳でも、混乱が収まった訳でも無かったけど、頭の中が真っ白になって、一つだけ解った事があった。
「…好き…。」
自分が壊れる位…。
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