ズボンの裾が伸びきってiPodのコードが揺れている。イヤホンを充てがってフードを被っておけばひとまず問題はないだろう。ヒビヤは走りながら独り事のように、呟く。

「……目隠し完了」

 ヒビヤの目にはいつもどおりの見えない現状が広がる。非常灯が通路の両側から赤く光り、それはまたシュールな景色へとなっていった。
 ヒビヤは思った。
 案外今日がこなかったとしても生涯不安症な君とローファイな風景を連れて、明日へ行けることが出来たんだろう、と。
 でも、そんな簡単じゃない。現実はそんな甘くないのさ。
 だからいままで『メカクシ団』として準備を進めてきた。そして、今日だ。

「さぁさぁなんかないものか」

 ふとヒビヤは呟いてイヤホンから流れる曲を聴きつつビートを揺れ気味に刻めば、この世界もそうそう悪いものじゃないようにも思えてくる。なんて慣れやすい性格なんだろうか、と思っていた。
 だが――それと同時にヒビヤは飽きっぽい性格でもあった。
 そんな虚栄心をのみこんで、二つ目の遮断機を右に曲がる。目的地はまだまだ先だが、警備がどことなく重々しくなってきているのが解ると、どうやら目的地が近いようだ。
 これからすることに、期待に胸が詰まって、思わず笑いが漏れそうになった。
 しかしヒビヤのそれは空気に馴染んでしまって、誰にも気づかれていないようで、結果的には断然オーライであったりする。

「任務続行」

 キドからその言葉を伝えられたときはもうタイムリミットまで20分だった。

「……こりゃ、引けないな……」

 そう言ってヒビヤはスニーカーの紐を結び直し。

「ほら、合図だ。クールに行こう」

 走りながら、ヒビヤは考えていた。

「……どうして、キドは僕に協力してくれたんだろう?」

 それが不思議でならなかった。考えれば解る。なぜ一個人にメカクシ団という団体単位で参加するのか? ヒビヤ自体よくわからなかったし、むしろこれで彼女が救えるのかも怪しかった。
 だが、いまは藁をもすがる思いで、やるしかない。やりきるしかない。
 ヒビヤはそう思って、走り出すのだった。

***



「……さて、時間か」

 気分は最高だ。ピーキーは揺れて、警鐘も止むこともない。
 キドは隣にいるマリーを見て、笑っていた。
 すべて、計画通りだ。これで、“彼”を救える、と。
 科学者は恐れて、ネオンを不意に落とした。キドにとってはそれすらもチャンスだった。

「さぁ、今こそ君の出番さ」

 キドは怯えるマリーに微笑む。
 マリーは、震えたまま、キドの方を見て。

「……私が?」
「ああ。そうだよ。君がやらねば、目的を達成することもできない。君の目的も、何もかもだ」
「……でも」
「さあ。やるんだ。頼む」

 キドは小さく、頭を下げた。

「わわわ。別に……そんなことをしないで……。わ。わかったから……」

 そう言って、マリーは、

 目を――合わせた。



***


「……ここか」

 キドは、実験室のような部屋にたどり着いた。そこにはひとりの少年がいた。
 そして、キドは嬉しさのあまり、声を震わせ、言った。

「――ここにいたんだな。会いたかったぞ……コノハ……!」



つづく。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

カゲロウプロジェクト 06話【自己解釈?】

「目を隠す話」終わり。続けて「目を醒ます話」になります。

―この小説について―

この小説は以下の曲を原作としています。


カゲロウプロジェクト……http://www.nicovideo.jp/mylist/30497131

原作:じん(自然の敵P)様

『人造エネミー』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm13628080 
『メカクシコード』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm14595248
『カゲロウデイズ』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm15751190
『ヘッドフォンアクター』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm16429826
『想像フォレスト』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm16846374
『コノハの世界事情』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm17397763 
『エネの電脳紀行』
『透明アンサー』
ほか

――

閲覧数:807

投稿日:2012/05/17 22:06:26

文字数:1,378文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました