UVーWARS
第三部「紫苑ヨワ編」
第一章「ヨワ、アイドルになる決意をする」

 その32「アイドル終焉の地」

 暗いステージの中央に眩しい程のスポットライトが当てられ、その中に女の子が現れた。
 それだけで喚声が上がり、女の子の名前が連呼された。
「シオリーン!」
 耳元で大きな声がした。鼓膜が震えて、耳の中がモヤモヤしてる。
 叔父さんかい、今の声!
 暗くてよく分からなかったけど、女の子は学校の体操着、ジャージの上下を着ているようだった。
 女の子が何か叫んだ。
 音楽が鳴り響く。
 ここはライブハウスなのかな?
 歌が始まった。
 あれ? どこかで聞いたような。
〔気まぐれメルシーが、アレンジされてるんだ〕
 今日で何回目だろう。ここでも聞けるとは。
 気付いたら、周囲は総立ちになっていた。叔父さんも。その歳で。いや、若いなあ。
 それにしても、ステージに立つのに、学校の体操着は恥ずかしくないかい?
 と思ってたら、ステージの女の子が狭いながらも見事なバク転を決めた。
 一層の喚声がお店の空気を固めたようだった。
〔バク転ぐらいでオーバーな〕
と思ったけど、喚声の訳はそれではなかった。
 女の子はバク転をしながら、遠心力で、ジャージのパンツを脱いでいたのだ。
 パンツの下はショーツかと思った。お店のお客さんの反応はそれっぽかった。
 よく見たら、水着だった。スポーツ用品のロゴが入っていた。
 でも。
「恥ずかしくないのかな」
 空かさず、叔父さんの声がした。
「あれでいいんだよ!」
 うお、ビックリした。耳元で大きな声!
 また、喚声が上がった。
 女の子が上のジャージを脱いだ。そのシルエットを見て、
〔なんだ。只の競泳用水着か〕
と思ったら、デザインが奇抜だった。
 上半分が透明なビニールになっていて、胸が強調されたデザインだった。競泳用水着の下に肩紐のないブラを着けているようだが、胸の膨らみは隠せなかった。膨らみの真中に濃い影、谷間があった。
〔男の子って、エッチィな、女の人が好きなのね〕
 男の人がそう望むから女の人がそういう格好するのか、女の人が男の人の気を惹くためにそういう格好をするのか。低俗で考えたくはないけど、人間は欲望で動く生き物なのかも、思ってしまった。
 欲望。希望。単語を並べて、入れ換えたら、少し寒くなってきた。
〔希望が、欲望がエスカレートして、アイドルがいなくなってしまったの?〕
 拍手と喚声が沸き起こった。
 競泳用水着の女の子がステージを後にした。
 替わって出て来たのは、ゴージャスな毛皮のハーフコートを着た女の人だった。
 ハーフコートの下の長い素足の先は、真っ赤なピンヒールだった。
 女の人は曲が始まるとハーフコートを脱ぎ捨てた。脱いだ瞬間の喚声が喧しかった。でも、もう慣れてきた。
 その下は、ビニールで出来たトレーナーのようだった。
 地味な衣装と思っていたら、とんでもない仕掛けだった。
 踊るたび、身体を捻るたびに、ゴムが切れるように衣装が破れていった。
 トレーナーの袖口を残して、トレーナーはノースリーブに変わった。手首に残った袖口はシュシュのように見える。
 胴体の布もどんどんちぎれていって、その下から現れたのは、チューブトップのブラだった。
 大事なところは隠されていたが、サイズの違いで、上下に肉がはみ出していた。
 曲が間奏に変わって、女の人はマイクを持って叫んだ。
 「オヒネリ、よろしくゥ!」
 喚声が上がったけど、一瞬、なんのことか分からなかった。
 包み紙に入ったマシュマロが沢山翔んだ。
 叔父さんが差し出したチラシの裏側に、オヒネリとマシュマロの関係が書いてあった。
 入場料、千円で、付いてくるマシュマロは5個。ステージに登場する「アイドル」に投げ入れて、「投票」を行う。投票の結果で、次回のステージの出演や、登場時間、ギャラが決まる仕組みらしい。
 その昔、「オヒネリ」と言えば、硬貨を紙に包んで舞台に投げ入れた、舞台上のパフォーマーへのチップのことだった。マシュマロはその代わりをするものらしい。
 マシュマロの追加購入は可能で、同じく五個千円だった。
 しかし、ステージの上に目をやっても、退屈だった。
 音楽はただ喧しいだけ、踊りは時々男に媚びるようなポーズが混じっている以外、これといった特徴はなかった。
 不意にわたしの手を引いて、叔父さんが歩き出した。
 喧しかった店を出て、わたしは振り返った。店の名前は「アイドル喫茶『アイドル終焉の地』」だった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

UV-WARS・ヨワ編#032「アイドル終焉の地」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「紫苑ヨワ」の物語。

 他に、「初音ミク」「重音テト」「歌幡メイジ」の物語があります。

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投稿日:2018/07/15 22:43:47

文字数:1,893文字

カテゴリ:小説

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