私は出稼ぎに都市に行くことにした。
昆布の国の都市、妖精の国の中ではかなりお堅い妖精達が集まることで有名な、あの昆布の国の都市にいく。
私は、昆布の国の田舎で育った昆布の妖精マコア・ぺディグリン。
マコアが名前でぺディグリンが名字だ。
私はお母さん、お父さん、妹、弟の5張家族だ。
昆布の国では一人2人でなく、一枚二枚でなく、1張、2張と数える。
 やはり、恥ずかしながら故郷を離れるのはとても辛かった。
妹はイヤイヤと地面に横になってジタバタと地団太を踏んでいた。
海の中だから、土といっても砂っぽい土だからフワフワッと砂が水中に舞って彼女の姿を消していた。
私は彼女がそうしたときになだめ化す役目を家族内で負っていたが、今日からはもうそのお勤めは終了である。
いつもの様には宥めに行かない。そのままさよならだ。暫くだから…そう我が妹に向けて心の中で密かに呟いた。
弟は意外と駄々を捏(こ)ねずに口を踏ん張って下の方を向いてお母さんと手を繋いでじっとしている。
じゃあ行ってきます。
私は言って、サッと振り向き家を後にした。
駅に着くまで私は一度も振り向かなかったそうでないと自分の心が緩(ゆる)んでしまう気がした。
一度緩(ゆる)んだ気持ちをもう一度自分自身で締めなおすのはとても辛い。
列車に乗るまで頑張って、乗車してから窓を見て見慣れた(駅周りはそこまで見慣れてもいないが…)我(わ)が故郷を振り返った。
もう列車に乗ってしまっているから、心がどんなに緩んでもこの列車は都に行くまでは止まらない。
汽車に乗って、私はコンブの国の都市へ行った。

 都に着いて私は、おばさんに誘われた会計事務所に向かっていた。
一応私は、昆布の国の学校を出ているので計算が出来る。
だから知り合いのあばさんの会計事務所に就職する事になった。
妖精としては最低の職業だ。
妖精は、想像上の生き物だ。
其の想像の産物が、理的に計算をするだなんて…。
其れはもう屈辱以外の何物でも有る。
屈辱と、敗北感。
妖精が計算をすると言う事は、アイデンティティを自ら深く傷付ける事と等しいので有(あ)る。
妖精はイマジネーションで無(な)く数学の世界に生きるなんて屈辱的だ。
昆布の国の妖精は頭が堅い故(ゆえ)、「アイデンティティが崩れても其れでも存在し続ける事。其れが、
大人への登竜門だ!」と皆言う。
妖精は大人には成ら無いのにね。
頭が堅いって、可笑しいよね。
 しかし、そんな事を言ったって、思ったって、其(そ)れでも貧しい家族が居る事だし、一応私は家族が好きなのだ。
だから家族のため…というと押し付けがましいが、事実それもあって都に遣って来た。

 駅を降りて、魔法で潤(ふや)け無い様になっている紙に書かれた、滲まない様になっているインクで書かれた地図を見た。
母から貰った地図だ。母が母の知り合いの人から教わって描いてくれた。
母はとても元気で、現金な人だ。
しかし、典型的なコンブの妖精でカナリ堅い性格である。
色々とうるさいのである。
普通もっとおばあちゃんになってから口うるさくなると思うのだが、あの年で口うるさいとなるとおばあちゃんになったらきっと口が裂けてしまうに違いない。
それくらい、今も口うるさいのだ。
しかしながらその母とも別れてこれからは1人で暮らして行か無くては行け無い。
正確には1人ではなく、ルームシェアだ。
妖精同士のルームシェアはかなり過酷とされている。
妖精は基本的に性格が濃く、ぶつかったときに両者が引か無(な)いから、大変な事になるのだ。
でも、私はルームシェアで遣(や)って行く。

 理由は…金が無いから。
ただそれだけ。
私は地図から顔を上げて前方に広がる道を見据え。
これからお世話になる、会計事務所の所まで歩き始めた。
まずは事務所から訪ねて、その後寮に行く予定である。。
知っている人が近くに一張も居(い)無(な)いのはとても心細かった。
結構暗くてよく分からないお店が並び立つ場所に来てしまった。
この通りはやけに暗い。日が当たりにくいようだ。
と、その時6メートル程向こう側に水中にプカプカと浮いて移動するコンブが居た。
黒ずくめでなんだか怪(あや)しいし怖い。
コンブの国は海の中にあるので、水中を泳いでも街中を移動できる。
でも、真面目なコンブは地を這いずって歩く。
不真面目なコンブ(特にヤクザ)とか、急ぎの警察とかはたまに水中をプカプカと泳ぎながら移動することもある。

 歩いていた。
すると、いや~な感じのお兄ちゃん達が2張こちらへやって来た。
私はそれとなく避けて行こうとしたのだが、その2張は私と同じ方向へふらふらっと来るのだ。
あ、もしかして…私に近づいているのでは無(な)いだろうな、何となくそう思った。
お兄ちゃん達は私の目の前に来て、話し掛(か)けてきた。
「よお、よお、こんばんは。こんな時間にどういう御用です?」
ああ、やっぱり、なんか嫌な予感がしたのだ。
「これから、仕事がありますので」
「何の仕事?ちょっといいかな来て貰って」
「あの、急ぎますので」
私は2張の脇を押し通ろうとしたのだが、2張が立ちふさがった。
「ちょっと!」
「君は才能がある」
「占い師の才能がある。」
私は兎に角前に前に進もうと思ったのだが、その2張は私を邪魔した。
「私達に着いて来るととてもいい事があるよ」
私は別の道から事務所へ向かおうとして、振り返って逆の方向へ向かった。
するとその2張は私を強引に拘束し始めた。
気がつくと周りにはもうコンブは居なくなっていた。
もう夜遅くだから、皆お家に帰っているのだ。
コンブの国の民は真面目だから夜遊びはしない。
しかし、一体こいつ等は何なんだ。
私は可也(かなり)ヤバイ状況に陥っていると私自身ヒシヒシと感じ取っていた。
2張は物理力魔法まで使っているから、私なんか全く抵抗出来なかった。
 …洗濯物を干さないと…。
ああ、お金が無くて大変なんだ。
じゃあ私が出稼ぎに行かないと…。
あれ?電車に乗って、もう出稼ぎの為に都会へと遣って来たんだ!
もう故郷は旅立ったんだ!家族ともさよならをした!
でも、私今何しているの?
電車から降りて、それでその後事務所に行って…アレ?事務所に行ったときの記憶が無い。
それ迄の間に何か…。
あ!あの2張!そいつ等に…捕まった!?
今私は、そいつ等に捕まって、それで?
あれ体が動かない。目も開かない?
 徐々に記憶が戻ってきて、今の状況を何とか把握しようと必死になって頭の中をぐるぐる回した。
つまり、整理すると私訳の分からないコンブ達に拉致されたという事だ。
それって最悪の状況ジャン。
もしかしてこのまま殺される?
そんな筈無いよね。
でも、あの物理的力を生み出す難しい魔法を使えるという事はもしかすると、
妖精一匹殺すくらい造作も無いことなのかもしれない。
そう思って、急に怖くなってきた。
「何なの!ここは一体何なの!?」
私叫んだ。水の中だからエコーロケーションによる部屋の広さの確認は出来ない。
音は全て水に吸収されてしまう。
私はバタバタと身体を動かした。大して動け無い。縛られている様だ。
 おっ何か来た様だ。さっきの2張か?
水の流れが微妙に変わったので、何物かが近寄って来ているのが分かる。
殺気は感じられない。
私を殺すつもりは無い様だ。
私は少々安心して、弩突いた。
「ちょっとあんたら、私をこんな目に合わせてどういう撥が当たるか分かってるんでしょうね。
私は不安の中で上京して来た、か弱い若者妖精なのよ!」

ライセンス

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ワカメの国 第八章 スカウトされた昆布 マコア・ボジェクゾシムの物語 1ページ

昆布の妖精、マコア・ボジェクゾシムの物語。
マコア・ボジェクゾシムは都会に出稼ぎに出る。
彼女は母の知り合いの会計事務所に勤める事が決まっている。
しかし、其の途中で、訳の分から無い奴等に絡まれる。
※小説「ワカメの国」は現在「KODANSHA BOX-AIR新人賞」に応募。結果は落選。
Yahoo!版電子書籍「ワカメの国」は此方
URL:http://blogs.yahoo.co.jp/wakamenokuni
です。

閲覧数:155

投稿日:2012/08/07 23:21:28

文字数:3,137文字

カテゴリ:小説

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