24.
「そこの変態に、辱めてもらいましょうかねぇ」
想定以上の、もはや鬼畜でしかないその内容に、私の思考は停止した。
その踊り場にいた奴ら……激闘を繰り広げていたにもかかわらず、存在を忘れられていたにままの忍者るかと裸マフラーが、咲音先輩の言葉に再度ピタリと動きを止める。
二人は、細切れになったロープの切れ端の散乱する踊り場で、るかが裸マフラーの背後から、首筋に刀を当てていた。どうやら忍者の勝ちで決着がつきかけていたらしい。が、一瞬だけ硬直から立ち直るのが早かった裸マフラーが、首をふりつつるかの刀の腹の部分を手のひらではじいて刃を遠ざけると、るかが動き出す前にくるりとステップを踏んで半回転し、忍者と正対した。
「フッ……。後ほんの一瞬だったのに、残念だったね」
「そんな強がりを言っていられるのも最後でござる。単にお主の寿命が数分延びたに過ぎぬでござるよ」
私が見ていた頃は、実力差がありすぎて裸マフラーにかなうとはとても思えなかったその忍者るかは、今では悠然として裸マフラーと対峙していた。
紫とピンクという衣装のわりに、そしてこれまでの残念さをいささかも見せないまま、刀を構えなおした忍者るかは裸マフラーを仕留めようと一歩踏み込む。
だが。
るかは、上へと続く階段を背にしていた。だから、いつの間にか階段を下りてきていた咲音先輩に気づくことができなかった。……忍者としては、それくらいは気づいて欲しいものだった気がする。
「だぁーめよぉー。あたしたちの邪魔をしちゃあねぇ」
だから、背後から振りかけられた液体をとっさに避けることができなかった。
どぽどぽどぽ。
咲音先輩の持つ一升瓶の中身が、るかの頭にバシャバシャとかかる。それはもちろんただのミネラルウォーターなのだが、忍者るかの顔がなぜか瞬く間に赤くなり、なぜか目がとろんとして、なぜか身体がふらふらし始め、なぜか足元がおぼつかなくなり、なぜかしゃっくりを上げるようになってしまった。
それは、すさまじく不可解ながら、まるで忍者るかが酔っぱらってしまったかのようだった。
「せ、せせせっしゃせっしゃは、これしきしきのことではは、まままままけたりはせんのでござござござこれしきではござる!」
ついさっきまでは冗談抜きで最強だったはずの忍者るかは、その一瞬で劇的な変化を遂げた。もちろんダメな方に。
忍者るかは、裏返った声でかわいらしく「てやぁっ」と叫ぶと――今までのるかを知っているだけに、そのかわいらしさはもはや気持ち悪いレベルだった――その刀を裸マフラーへとつきだそうとした、のだろう。まるで見当違いの壁に刀を突き刺し、抜けなくなってしまった刀をなんとか引っこ抜こうと四苦八苦し始めた。
……ミネラルウォーターの力、恐るべし。
「さぁて、ルカちゃぁん。覚悟はいいかしらねぇ?」
私は力なく、ふるふると首を横にふる。
覚悟なんて、できているわけがない。ていうか、そもそもそんな覚悟ができるはずもなかった。
「さぁ行きなさい、そこの裸マフラー!」
私のささやかな拒絶の意志など当然のように無視して、咲音先輩は叫ぶ。そうして先輩は私を指さして変態をけしかけようとした。が、当の変態のほうがその事態に困惑していた。
「え……めーちゃん、それはさすがにまずくないかなぁ。そんなことしたら、巡音さんの今後の人生に支障が出るくらいのトラウマになりそうに見えるんだけど……」
裸マフラーが私のほうを見て心配そうにつぶやく。
……そう思うのなら、そもそも裸マフラーなどという常軌を逸した格好で現れないで欲しい。しかも女子寮に。いや、女子寮以外のどんな場所であろうとありえない姿だけれど。
「ちょっとあんた、こんだけのことをしといてなにを今さら――」
「いや、それはめーちゃんが無理矢理……」
「黙りなさい。それ以上余計なことを喋ったら……わかるわね?」
そう言って一升瓶に入ったミネラルウォーターをぐびりとあおる咲音先輩。おびえてうなずく裸マフラーを見下ろした先輩は、唇のはしをぬぐいながらニヤッと笑った。どう考えても悪役の顔である。清純派アイドルはいったいどこにいってしまったのか。
「さぁ、わかったわね。ルカちゃんも観念しなさい。思う存分この変態に辱められるがいいわ!」
勝ち誇る女帝と、いろいろあきらめきった感じの――目元は例のマスクで隠されているので表情はわかりにくいのだが――裸マフラーが階段を下りてきて私にせまる。
それにしても、声をかけるどころか姿を見たくもないような裸マフラーなどという変態に対して平然と声をかけられる咲音先輩は、すごいと思う。すごいとは思うが、真似はしたくない。ちょっとどうかしてる。あげくにまるで旧知の仲みたいに親しげにしているし。……あのミネラルウォーターのせいだろうか。
私は周りを見回す。
階段の踊り場には使い物にならなくなった忍者るかが、床に散らばったロープの残骸になにかを話しかけていた。私の両脇には言い負かされたグミと現在の苦境を作りだしてしまった下着姿の初音さん。彼女たちでは、私を守ることなどできないだろう。むしろ、下手に巻き込めば彼女たちも被害者になってしまうし、私の立場がさらに悪化しかねない。……これ以上悪化する余地があるのかどうかは不明だが。
だが、いくら咲音先輩だとはいえ、辱められるなどと言われて「はいそうですか、わかりました」などと言えるわけがない。さすがにここは全力で拒否だ。……でも、どうやって?
忍者は使えそうもないし、さっき考えた通り、グミと初音さんを頼りにするわけにもいかない。
……仕方がない。どうやら最後の手段に頼るしかないようだ。本当は、どう考えてみてもこれだけは使うべきではない手段だと思うのだが……。しかし、他に方法がない以上、こうするしかない。
私は意を決して瞳を閉じ、時を止めた。
Japanese Ninja No.1 第24話 ※2次創作
第二十四話
いや今回は、本当にしちゃいけないことをしてしまった気がします。
今までいろいろとメタ発言を繰り返してましたが、ちょっとさすがにやり過ぎたような気がします。
一応そのまま二十五話に続くことができるようになっていますが、前のバージョンが存在します。いったいどういうことですかね?
それじゃ、僕はちょっと逃げ出します。グミ嬢、後は頼んだよ。
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君が姿見 覗いてみれば
光の向こうの億年 見据えて
限りなく進む夢々とこれから
廻りながら感じて内宇宙...天体スコープ
Re:sui
彼女たちは物語を作る。その【エンドロール】が褪せるまで、永遠に。
暗闇に響くカーテンコール。
やむことのない、観客達の喝采。
それらの音を、もっともっと響かせてほしいと願う。それこそ、永遠に。
しかし、それは永久に続くことはなく、開演ブザーが鳴り響く。
幕が上がると同時に、観客達の【目】は彼女たちに...Crazy ∞ nighT【自己解釈】
ゆるりー
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