『迷子になった時はその場を動かない方が良いんだよ♪』
なんて言葉を聞いた気がする。かなり遠い昔。それこそサンタクロース信じてました、的な年の頃に。
「レ――――イ――――?」
「見付かんないね。」
「電話も繋がらないし一回家に帰ってみるとかは?」
「有り得ない。レイはそれこそゴミ箱の中すら見付かるまで探すだろうから。」
「根性あるお姉さんね…。」
「大丈夫です王子様!私も探すの手伝います!」
「聖螺ちゃんだっけ…?その王子様っての止めてくれるかな?こっ恥ずかしい…。」
道行く人にクスクスと笑われながら溜息を吐く。そもそも何だってこんな事になったんだ?カラオケに居たのに足ぶつけて、爪先轢かれて、ラリアットされて、飯はまぁ旨かったけど花屋助けたら終いには王子様…。
「照れるなって~王子様~♪」
「だから違う!」
「ぴっ…?!ご…ごめんなさい!ごめんなさい…!」
「あ、いや…だから…その…。ほら、俺王子様なんてガラじゃないだろ?さっき
だってちょっと転びそうなの支えただけだし。どう見たって王子様には見えない
だろ?な?」
「え…あ…あの…あのあのっ!ふぅっ…。」
「わぁ?!大丈夫か?!」
「ご、ごめんなさい…そんな近くで見られたらドキドキして…あの…私には充分
王子様です…。」
「あ、そう…。」
王子様呼びは兎も角、初対面の女の子に茹でダコの様な真っ赤な顔をされては、こっちもどう対応して良いやら判らない。例えは悪いが卵から孵ったヒナが後ろをトコトコ着いて来てる様な気分だ。正直悪い気はしないが思い込み激しいだけみたいだし、適当に王子様ごっこに付き合えばすぐ諦めるだろう…。
「あ、ねぇ交番で聞いてみたらどうかな?ひょっとしたらお姉さん携帯落とし
ちゃって探してるとかかも知れないし。」
「鈴々、前。」
「ぶっ!すいませー…。」
「…クヒッ…。」
「え…?」
「クヒッ…クヒヒヒ…!キャハハハハハハハハハハハハ!!!」
「ひっ…!」
「鈴々!」
オイオイオイオイ!そろそろ脳許容限界なんですけど?!ホラーゲームじゃあるまいし、口から触手とか有り得ないから!明らかにヤバイ生物に辺りは悲鳴と逃げ惑う人達でパニック状態になった。
「鈴々走れ!」
「な…何なのあれ…?!」
「知るかよ、逃げるぞ!」
奇声を上げながら化け物は何故か一直線に俺達を目指して恐ろしい速さで追いかけて来た。冗談じゃない、何だってこっちに…!振り返りながら走っていると急に足元の感覚が無くなった。まずい…階段…?!
「…っ!危ない…!」
意外な程強い力で腕を引っ張られて、そのまま前につんのめる様に倒れ込んだ。一瞬何が起きたのか判らなかった。化け物が目の前で暴れるのを茫然と見ていたけど、後ろで何かが落ちる音がして我に返った。
「…聖螺ちゃん…?!聖螺ちゃん!!」
「ちょ、嘘だろ?!救急車!!」
引っ張られた腕を思わずぐっと掴んだ。あの手は…俺を庇って…?何で…?何でだよ…?少し助けただけじゃないか…なのに何でいきなり王子様なんだよ…?何で真っ赤になって倒れる程ドキドキ出来るんだよ…?何で…躊躇いも無く俺を庇ったりするんだよ…?何で…血だらけで倒れてるんだよ…?何で…!!
『私には充分王子様です…。』
「―――聖螺!!!」
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