これは創作やなにかを作るひと全員に向けた、
とても抽象化した物語なので、分かりづらいところがあったらお許し願いたい。
瑕疵があるとすれば、物語り手の不徳の故だから。

 あるところに、歩く魚がいた。
 魚は何故自分が水の中を泳ぐより、歩くのが得意なのかは分からなかったが、それができるということには何かの意味があるのだろう、と思った。
 そこで、《包容なる海》に暇乞いをして、《母なる土》の上を歩く旅に出た。
 魚が歩いていくと、麦畑にであった。畑の真ん中には家があり、かまどからおいしそうなパンを焼く匂いがした。
 《歩く魚》は戸口のところにいた《小麦を練る人》に挨拶をし、パンを分けてもらえないか、と頼んだ。
 《小麦を練る人》は「いいよ」と言って、素朴な丸パンを一つ持ってきた。
「これは砂糖も何も入ってない、小麦と水と塩、それと酵母でつくったパンだよ。これでもいいのかい?」
 《歩く魚》はバターを持っていたので、《小麦を練る人》に分けてやり、両者はバターつきの焼きたてパンを分かち合った。

 満腹した《歩く魚》はまた歩き出した。
 歩いてゆくと畑があった。そこは不思議なところで、新芽を出したばかりの樹があるかとおもえば、熟した果実をつけた樹もあり、あるいは複数の木々の間に色や粒の異なる実をつけた畝もあった。花が咲く畝もあれば、変なにおいや色の植物のある場所もあったが、とにかくさまざまな生き物があることが分かった。
 驚きながら歩いてゆくと、看板がたっていた。看板には、
「この畑に樹を植える者すべてに、ここの果実を分けてあげます」
 と書いてあった。
 魚は自分の持っていた浜辺の樹木の種を植えると、感謝と祝福の歌を歌った。全ての木々が良く育つようにと。
 そして、果実のいくつかをもらってさまざまな味と香りを楽しみ、元気になった。

 《歩く魚》が畑を出ようとすると、看板の上に止まっていた《烏》が警告の声をあげた。
「この畑以外の場所では、用心して歩め、《歩く魚》」
「それは何故でしょうか」
 《烏》は片方しかない目玉をぐるりとまわして、畑の外に広がる荒野を示した。
「自分のものにすべきでないものを、そうしてはいけない方法で、自分のものであるかのように偽るものもいる」
 《歩く魚》は考えて、尋ねてみた。
「海には魚を食べる魚がいたことを思い出します。
 あなたの片方の目はそうしたものが盗ったのでしょうか」
「いいや、醜いものばかり見てしまったから、とうとう目のほうが腐り果てたのさ」
 《隻眼の烏》はそういうと、耳障りな笑い声を立てて飛んでいってしまった。

 また歩き出した魚は、小川の上にかかる橋を渡っていた。
 先の岸には草原があり、木立の下には冷たい水のわく泉があった。泉のほとりには綺麗な壺を携えた人が居て、魚に呼びかけた。
「歩いてきて喉が渇いたろう。おいしいワインを分けてあげよう。一緒に飲もう」
 警告を受けていた《歩く魚》は、怪しんで尋ねた。
「あなたの家の周りにはブドウ畑が無いようですが、そのワインはどうやって造ったのでしょうか」
 《美しい壺》を持つものは、嫌なことを聞かれたという顔をした。
「そんなことはどうだっていいじゃないか。喉が渇いていないのか」
「誰かのものを盗んでつくったもので喉を潤すのはごめんです。
 たとえ相手が盗まれたことに気がついていなくても、私は気分が悪くなる。
 さあ教えてください、あなたのワインはどうやって作ったのですか」
 《美しい壺》をもつものは、質問が聞こえない振りをしたり、怒ったり、同情をひこうとしたりしたが、とうとう白状した。
「富裕な畑のぶどうを盗んで作ったものだ」
 と。
 《歩く魚》は考えて、頭のなかで天秤を揺らしてこう答えた。
「あなたの泉の水であれば、喜んで分かち合うつもりでした。
 あなたが、ぶどうの持ち主に許しを得て醸造したワインでも、そうしたでしょう。
 またいつかここに来たとき、どちらかをご馳走してください」
 そういうと、《歩く魚》は橋の上から川に飛び込んだ。

 川が《包容なる海》へと魚を運ぶうちに、月が空に現れた。
「《歩く魚》、もう旅にでるのは止めたくなったかい」
「いいえ」
 と魚は答えた。
「まだ、自分が何故歩けるのか、その意味がわかっておりません。
 活力を回復したら、また旅に出ようと思います」
 《祖父なる月》は穏やかに微笑むと、川面に銀色の光を投げかけて祝福してやった。おしまい。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【物語】歩く魚の物語

 私にとって、誰かを非難したり、怒らせたりするのは『とてもしたくないこと』です。
 だからといって友人知人の誰かが、それと知らずに間違ったことをしでかすのを放置したくもありません。
 このお話の教訓が、誰かの役に立ちますように。誰もが素朴なパンを分かちあい、果実を分かちあい、水やワインも(比喩として、です。私自身はお酒を飲めませんのでw)分かち合えますように。
 ライセンスとして、原著作者としての切身魚の記名あり・改変を許可します。あなたの物語は、どのように語られるのでしょうか。
 もし物語るお話があれば、バリエーションを創作ツリーで教えてください。
 皆様が素敵な創作活動を、末永く楽しまれますように。

閲覧数:60

投稿日:2010/06/24 21:31:12

文字数:1,863文字

カテゴリ:小説

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    何か考えてみたい人のために追記しておきますね。

    ・あなたはバターを持っていますか?それとも、何か他のものを持っていますか?それは、誰の権利も侵害しない、あなたの持ち物として誇れるものですか?
    ・この【畑】とはどこのことか、あるいは【荒野】【海】とはどこのことでしょうか?
    ・【隻眼の烏】の目は何故腐ってしまったのでしょう?
    ・【美しい壺】の中身が何であれ、全ての人にとっての大事なこと、正しいこと、適切なこととは何でしょうか?それは【入れ物の美しさ】で測れるものでしょうか?それは【中身の味が良いこと】で測れるものでしょうか?

    2010/06/24 21:36:02

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