「……ここが、箱庭……、僕がいた世界……」
「思い出したかね?」
 キドはヒビヤに問いかける。ヒビヤはゆっくりと頷く。
「……さて、実はだな。君には少し難しい話をしておこうと思う」
「なんでしょう」
 キドが言ったのはこんなことだった。
「昔々、世界のことをなんでも解ってしまう少女がいました。
 少女は世界のことが解りつまらないと思っていたのです。
 世界はなんだかつまらないもので、彼女はひとつの考えを持っていました。
 『なんだか面白いことの起きる世界にはならないか』とね。
 それを、作ってやろうとした組織があった。
 彼女の思うがままの世界を、最初こそは作ろうとしていた。
 だが、いつからかは知らない。誰かがそれを自分の世界へと変えた。
 ある世界は繰り返しを行うことで人間の精神などを調査する実験のための世界へと。
 またある世界は……。全てはその人間の欲で決まった。なんとも信じがたいだろうが、それが現実だ。この箱庭が何よりの証拠になる」
 キドの話は、ヒビヤには信じがたいものだった。
 箱庭? 世界? 作り替える? 
 つまり、僕はある人間のために生きていたのか? 作られた命だったのか?
 ヒビヤは頭の中で考えた。けれども、結論などそう簡単に出るわけもなかった。
「……さて、行くぞ」
 キドは走る体勢を取った。
「……どこへ?」
「さっきも言っただろう。繰り返しを行うことで調査する世界、とな。その条件はある命の終了――つまり、ヒビヤくん、君が救いたい命の終了が繰り返しの条件になっているんだよ」





 彼女を救うために、ヒビヤは再びあの場所へと立った。
 とはいっても、どうすればいいのか、ヒビヤには解らない。
 ヒビヤにはどうすれば、彼女を救えるのかは解らない。
 でも、彼には――思いがあった。
 彼女を――救いたい。そして――伝えたい。
 ヒビヤは、彼女が好きだった。
 本当ならば、あの八月十五日でその思いを伝えるつもりだったのだ。
 ただ、なんどもこれは繰り返される。いつになっても、いつになっても。
 ――これを、どうすれば彼女を救えるんだ?
 ヒビヤは、ただ考えることしか出来なかった。




「……仕方ない。強引にでも連れ去るしかないだろう」
 キドの言葉は一瞬だった。
 刹那、キドの合図とともに向こうの公園で今話しているはずの彼女がここに連れてこられた。
「……え?」
 あまりのことで、ヒビヤにはすべてが追いつかなかった。
 だけど、これだけは解った。
 彼女が――ここにいる。
 今まで、助けることのできなかった彼女が自分の目の前に、手の届くところにいるということだ。
 もう、あの繰り返しもない。
 繰り返しもないのなら、九月へと行くこともできる。
「……よかったな、ヒビヤ」
 気付くと、コノハがヒビヤの目の前へと来ていた。
「……?」
「僕は命を蒸し返す機械、らしい。そして、今まで君たちの存在を知っていた。だけど……救うことはできなかった。そして今……君達は君たちの手で運命を解き放った……」
「そんな、大層なことはしていないですよ。メカクシ団のみなさんのおかげです」
「私はただ目的のために行動している。それで利用したまでだ」
「またまた、そんなこと言って。ほんとはさみしいんでしょ?」
「シンタロー、ちょっと黙れ!!」
 こほん。
「……ひとまずはよかったな。助けることができて」
 キドは咳を一つして言った。
「だが、これにより少し問題も発生するだろうな。プログラムのコードを、それも重要部分を削ってしまったんだ。バグも発生するだろうが、所詮は箱庭、おそらく繰り返しが繰り返されていくだろうな」
「……それって、どういうことですか」
「どうしたもこうしたも簡単だ。今まで君らの繰り返しによってこの箱庭は安定していったんだ。それが消えたらどうなる? 即ちバグが起きたまま、プログラムを実行することになる。それが小さければいいだろうが、今回の場合はこの箱庭の根幹を揺るがすものだ。例えば、の話だがゲームのプログラムでソフトをインストールして認知するプログラムが動かなかったらどうなる? それはゲームとしては機能を失い、ゲームではなくなる。それがどういうことを意味するか、なんとなくでも君にも解るだろう?」
「……つまり、ここが消えてしまう……と?」
「それもありえるな。意味を失った実験施設は無意味だろう。……それがどうかしたか?」
「だって……そんなの辛いじゃないですか!! 僕らだけが助かって、ほかの人間が死んじゃうなんて! そんなの……」
「なるほどな」
 キドは笑って言う。
「じゃあどうする? メカクシ団にいれば、もしかしたらその方法も見つかることができるかもしれんぞ?」
「……解りました。行きます。メカクシ団へ。今度は、自分の意志で」
「解った。では、歓迎しよう。メカクシ団へ!」
 キドはそう言って微笑んだ。
 夏の陽射しは少し和らいで、季節外れの北風が吹いていた。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

カゲロウプロジェクト 11話【自己解釈?】

ほんとは分けようとしたんですが、分けるには少ない気がしまして。
カゲロウ編(勝手に命名)はこれで終わりです。

……エネ編に行こうと思いましたが、モモ編(目を奪う話)に入ります。

―この小説について―

この小説は以下の曲を原作としています。


カゲロウプロジェクト……http://www.nicovideo.jp/mylist/30497131

原作:じん(自然の敵P)様

『人造エネミー』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm13628080 
『メカクシコード』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm14595248
『カゲロウデイズ』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm15751190
『ヘッドフォンアクター』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm16429826
『想像フォレスト』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm16846374
『コノハの世界事情』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm17397763 
『エネの電脳紀行』
『透明アンサー』
『如月アテンション』
ほか

――

閲覧数:983

投稿日:2012/05/26 01:19:30

文字数:2,080文字

カテゴリ:小説

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  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    おおお!!
    ついにヒビヤ君と少女(←)助けたんですか!

    そして次はエネ編……。
    ってことはヘッドフォンも出てくるかな?……

    次回も楽しみにしてます!

    2012/05/26 22:30:35

    • aurora

      aurora

      助けました! あんまよくわからなくなってきてしまったけど!w

      エネ編は個人的に書きたかったので自分自身楽しみにしてます!!

      2012/05/26 22:36:41

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