ざわざわした声と、少し間延びしたチャイムの音が聞こえた。あの後研究施設を出て行こうとした俺を幾徒が送ってくれた。話をする気にもならず礼すら言わなかった。帰り際幾徒は言った。
「それじゃあまた、近い内に。」
ハッキリ言って二度と関わりたくないと思った。訳の判らない怪人には追い駆けられるし、変な銃で撃たれるし、今生きているのが不思議な位だ。命が幾つあったって足りない。
「なぁなぁ、流船!流船!」
「んぁ?」
「あの転入生めちゃめちゃ可愛くね?マジ好みなんだけど!」
「転入生?」
「ほら、前!流船前!」
「判った…って…!!!」
「初めまして、伽音芽結と申します。宜しくお願いします。」
叫びそうになるのをやっとの思いで飲み込んだ。ぼんやりしていた頭はたちまち嫌悪感で一杯になった。『近い内に』ってこう言う事かよ…あの野郎…!その後の授業はさっぱり頭に入らなかった。チャイムが鳴り、昼休みになるといつもの通り屋上への階段を昇っていた。
「あの…!」
「あいつの命令か?」
「違…!あの…私!」
「聞いて欲しいならまた打てば?服従でも、隷属でも、意のままに出来るんだろ?
大したもんだよなぁ!」
「ひっ…!」
「…何とか言えば?」
「…め…なさい…。ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
芽結は俯いたままぼろぼろと涙を零した。肩を震わせながら両手でも追い付かない程の涙を懸命に拭っていた。
「今度は泣き落とし?」
「ごめ…なさ…!っく…ひくっ…うっ…!」
流石にこんな場所で女の子泣かせてるなんて誰かに見られたら厄介だ。しかもこいつは転入生な上にやたらと目立つし…。
「来い。」
「ごめ…ごめんなさい!ごめんなさい!」
「こんなの見られたらどうすんだよ?!良いからちょっとこっち!」
泣きじゃくる芽結の手を掴んでそのまま脇にあった資料室へ引っ張り込んだ。屋上でも良かったが昼休みだと結構人が来るので安心は出来なかった。泣きじゃくったままの芽結に深い溜息を吐く。
「…何であんな事したんだよ?すぐ切れるって知ってたんだろ?俺が怒るとか
思わなかった訳?」
「ごめんなさい…!」
「だからごめんばっかりじゃなくて…!」
「嬉しかったの…。」
「は?」
「あの時…貴方が適合者だって聞いて…やっと仲間が増えるって思ったら嬉しくて…
お友達が出来るって思ったら嬉しくて…。」
「友達に『服従』だの『一目惚れ』だのって感情要らないだろ…。大体…。」
「だって…!…だって流船君男の子だったから…。わ…私の事好きになって貰えば
ずっと一緒に居てくれるって思っちゃって…。」
「あ~…頭痛ぇ…。」
誰かこいつの辞書に『男女の友情』と言う語句を追加してくれ…。
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