結局私はコンビニには行かなかった。重い沈黙の中翡翠さんは律儀に私を家迄送り届けてくれるつもりの様だ。そう言えばさっき弐拍さんこの人に命令っぽいのしてたよね。

「あの…菖蒲さんは弐拍さんの部下なんですか?」
「いいえ。」
「あ…そうですか…。」

即答で会話ブチ切りですか、話全然続かないじゃない!何考えてるか全然判んないし…送ってくれるのは有難いけどそこ迄邪険にしなくたって良いのにな。

「…冰音リヌさん。」
「え?はいっ!」
「啓輔さんにこれ以上関わらないで貰えますか?迷惑なので。」
「なっ…!」
「それに貴女も言ってたじゃないですか、BSはズルイ化け物だと。それ位私達は
 聞こえていましたよ。」

返事が出来なかった。確かに私は言ったんだから、勢い任せだけどユウ先輩をズルイ、化け物となじったのだから。後ろめたくて思わず俯く。判っていても恐怖が拭い去れない。

「…菖蒲さんは弐拍さんの為にそこ迄するんですね。」
「私は…誰でも構わなかったんですよ。私を連れ出してくれる人、私に道を示して
 くれる人、私が守るべき人、偶然啓輔さんだっただけです。例えば貴女が私を救った
 のだとしたら、私は貴女を守っていたんでしょうね。」
「そんなの酷い!」
「酷いのは貴女の方です。化け物だと内心で怯えながら好奇心で近寄って、どれだけ
 自分が無神経か考えた事ありますか?」

ぐさぐさと言葉が胸に刺さる。何か言おうとしても何も言い返せない、言葉が出て来ない。翡翠さんの考えがダメって言うのは判るけど、淡々といかにもな正論をまくし立てられて二の句が告げない。でも絶対違う気がする。だって翡翠さんには心をまるで感じない。

「それでも…人形みたいな菖蒲さんよりマシです!」

ヒュゥと一瞬風を切る音がした。すぐ目の前に光る銀色の物体があった。もしかしてこれ…手術用のメス?血の気がサーッと引いた。菖蒲さんは顔色一つ変えず私の鼻先にメスを突き付けていた。

「…理由はどうあれ啓輔さんは私自身への戒めであり守るべき人です。
 貴女に関わったせいで啓輔さんや貴女自身怪我でもしたらきっとまた傷付いて
 自分を責める。そんな事はさせられないんです。」
「いい加減じゃなかったら良いんですか?」
「いいえ…。貴女が本気で知りたいと思っても私は貴女を遠ざけたい。それは貴女の
 安全の為でもあるんです。」


翡翠さんの表情は少しも動かなかった。と、ポツポツと冷たい衝撃が私の腕を打つ。

「雨…。」
「…これでも羽織っていて下さい、無いよりはマシでしょう。」
「え、でも…。」
「その服は捨てて結構です。化け物の着た服ですからね。」
「そんな言い方…!」

睨み付けようと向き直った。でも、やっぱり何も言えなかった。翡翠さんは小さな声で呟く様に言った。

「私の存在意義を奪わないで下さい…。」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -24.悲しい雨が降る-

※次ページは…ノーコメントでw

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投稿日:2010/06/03 02:21:39

文字数:1,191文字

カテゴリ:小説

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