私を含めその場に居る全員がモニターを見守っていた。時折映る小さな流船を見る度、心臓が跳ねる。いつの間にかぎゅっと握り締めてた手にふっと誰かの手が触れた。

「大丈夫…。」
「レイさん?」
「あの二人なら大丈夫、そうでしょう?きっと…もうすぐ流船君に会えるわ…ね?」
「…はい…。」

『兄ぃ…!ねぇ待って!…待ってよぉ!』

思わず声を上げそうになった。聞こえないと判っていても、届かないと判っていても、手を伸ばして抱き締めれてあげられたら…!


『―――流船!!』


それは聞き覚えの無い声だった。頼流さんでも、ゼロさんでも無い、叫ぶ様な高い声が響いた。

「…姉さん…?」

その声は直ぐに車のブレーキ音と、ガラスが割れるみたいな音に掻き消された。ノイズが走ったままのモニターを呆然と見ているしか出来なくて、酷くもどかしい思いでいっぱいになる。数秒なのか数分なのか判らない、長い沈黙。痺れを切らした様に幾徒さんがインカムに向かって口を開こうとした時だった。


『…っく…うぇ~~ん!うわぁああああんん!兄ぃ…!兄ぃ~…!』


「あ…?」
「この声…!」

『…救出成功…怪我人無し…いや、擦り傷一名、かな?』

「ゼロ!大丈夫?」

生きてる…生きてるの…?助かったの…?会えるの…?

「芽結…?!」

幾徒さんの声とほぼ同時に急に視界が引っくり返って目の前が暗くなった。私どうしたんだろう?真っ暗で何も見えないよ…足元も立ってる実感が無いし、手を伸ばしても何も触れない…。流船…流船何処…?寂しいよ…一人じゃ寂しいよ!もう泣くのヤダよ…!ねぇ流船…ねぇ…!


…会いたいよ…!


ぼやけた視界に天井と宙を掴む私の手が見えた。少しずつハッキリする意識を戻すみたいに、伸ばした手を下ろそうとした時だった。

「芽結。」
「え…?」

声も涙も出なかった。耳に届いた声と、私の手を握る温かい手と、エメラルドの髪と、柘榴の瞳を私はぽかんと見ていた。

「芽結…。」
「えと…夢…?」
「夢じゃなくて。」
「あ、触れる…。」
「いや、あの…芽結?」
「流…船…だ…。」
「うん…ただい…わわっ?!」

何か言ってた様な気がしたけどよく聞こえなかった、私も何か言ってたかも知れないけど判らなかった。手を離したら消えちゃいそうな気がして必死で捕まえてしがみ付いた。どの位そうしていただろうか、きっと泣き腫らしたであろう酷い顔で、それでも精一杯の笑顔でやっと言えた。


「おかえり…流船…。」

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コトダマシ-89.おかえり…。-

やっと帰せた…(;∀)

閲覧数:86

投稿日:2011/02/20 20:21:07

文字数:1,050文字

カテゴリ:小説

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