魚を届けてくれるその熊を武器を向けてしまったお詫びも含めて
「神様」と呼ぼうではないかと
こうして、熊の神様は生まれたのです―
「熊を恐れていたのに、魚がもらえると分かれば逆に招き入れる…滑稽ですよね」
「いいんじゃないですか?」
澄兵衛は畑を見る。
「人間と野生の動物がお互いに警戒し合い、
時には一緒に生きていくのは当たり前です」
眼前に見える光景に、ふたたび自分の過去を重ねる。
「お詫びもこめて「神様」と一部だけじゃなくてみんな呼んでいるところに、
優しさが表れていると思います」
「…そうかもしれませんね」
うつむいていた女の顔が、ほころび始める。
「また勝手なことをしちゃうかもしれませんが、これからも大切にしていきます」
そして、満面の笑みを見せた。
「いなくなっても、忘れないよう後世に語り継いで」
野菜をもらって帰る途中、
村人たちが熊に見せていた様子を思い出して澄兵衛はほほ笑む。
たまに来るスズメにでも餌をやろうかと思いを馳せながら、
両手いっぱいの野菜を嬉しそうに持っていった。
-End-
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