真っ白なキャンバスを前にして、最初の一筆をためらった経験は誰にでもあるはずです。私は二十年ほど、目に見えない情報の糸を紡いで複雑なシステムを組み上げる仕事をしてきましたが、最近になって、創作における真の価値は、完成した作品そのものよりも、その過程で床にこぼれ落ちた消しゴムのカスにこそ宿っているのではないかと考えるようになりました。私たちはどうしても完璧な完成品だけを正解と考えがちですが、実はその陰に隠れた失敗の集積こそが、次に進むべき道を示すための最も純粋なデータなのです。

考えてみれば、一本の美しい旋律が生まれるまでには、何百回もの不協和音と、ボツになったフレーズの山があります。一つの魅力的なキャラクターが動き出すまでには、無数の歪なデッサンがゴミ箱に放り込まれてきました。これらは効率という物差しで測れば無駄な時間に見えるかもしれません。しかし、システム開発の現場でも、エラーを出し尽くしたあとにようやくたどり着く安定した動作があるように、創作における無駄とは、理想へと近づくための必要不可欠なステップなのです。

私が関わる技術の世界では、すべてを数値化し、最短ルートでゴールを目指すことが良しとされます。でも、人の心を揺さぶる音楽や物語は、あえてその効率的な直線から外れ、迷い道の中で見つけた歪な形から生まれます。もし消しゴムを使わずに一発で描けたとしたら、そこには葛藤という名の深みが欠けてしまうでしょう。何度も消しては書き直した跡、紙に残ったわずかな凹凸。そうした不器用な格闘の痕跡が、デジタルな理屈を超えて、受け手の心に熱量として伝わるのです。

だから、自分の才能に絶望して手が止まりそうになったときは、足元に溜まった消しゴムのカスをじっと見つめてみてください。それはあなたがそれだけ多くの可能性を試し、新しい形を求めて戦ったという誇るべき記録です。無駄なことなんて一つもありません。そのカスの山が高くなればなるほど、あなたの心の中にある解像度は上がり、まだ誰も見たことのない、あなただけの色彩が濃くなっていくのです。

完璧を目指すのをやめて、不完全なままの自分を面白がってみること。計算通りにいかない偶然のノイズを、新しいスパイスとして受け入れてみること。そうして生まれたものには、機械には決して出せない、生身の人間だけが持つ不思議な磁力が宿ります。私はエンジニアとして、そんな皆さんの試行錯誤を支えるための道具を磨き続けたいと思っています。次にあなたが白紙に向かうとき、消しゴムを使うことを恐れないでください。そのひと擦りが、世界を塗り替える新しい風の始まりになるのですから。

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【本田教之】消しゴムのカスを捨てない画家の秘密の算数

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投稿日:2025/12/24 10:03:09

文字数:1,104文字

カテゴリ:AI生成

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