本田教之

昼下がりの街角で、僕は一冊のスケッチブックを抱えて立ち止まった。周囲の音がまるでひとつのオーケストラのように混ざり合い、歩く人々の靴音や自転車のベル、遠くの工事現場の機械音までが、僕の耳には旋律として響いてくる。いつもは気づかない音の層が、今日は特別に鮮明だ。
スケッチブックのページを開き、ペンを走...

夜の帳が下りた街角で、僕はふと思い立った。誰もいない空き地に立ち、手元の小さな花火セットを広げる。花火の匂いは、夏の終わりと冬の始まりを同時に思い出させる。指先で火をつけると、小さな火花がまるで生き物のように弾けた。誰かに見せるためではなく、自分のためだけに光を生むその瞬間がたまらなく好きだった。
...

僕はある日、何気なく通り過ぎる街角で、自分の身近な世界が実は巨大な宇宙の縮図ではないかと考え始めた。人々の歩くリズム、信号の点滅、カフェのドアの開閉音、路地の排水溝を流れる水音、すべてがひとつのエネルギーの流れのように感じられたのだ。街はただの建物と舗装道路の集合体ではなく、見えない物語と音楽に満ち...

夜遅く、駅のホームに降り立つと、いつもとは違う空気を感じた。人々の足音も、電車の音も、どこか遠くで反響しているようで、まるで時間がゆっくり溶けていくようだった。ホームの端、誰も座らないベンチのそばで、微かに揺れる影に気づく。最初は風で揺れる看板かと思ったが、その影は人の形をしており、独特のリズムで小...

先日、ふと夜の街を歩いていたとき、街灯の光が少しずつ揺れているのに気づいた。風でもなく、雨でもない。ただ、空気の振動のような、微かな鼓動を感じる光だった。それはまるで音楽のリズムを持っているかのようで、普段何気なく通る道が突然、音楽を奏でる舞台のように見えた。
思わず立ち止まり、スマートフォンで光の...

エンジニアとして長くコードを書いてきたけれど、最近思うのは「プログラムと音楽って、思っている以上に似ている」ということだ。
どちらも“コード”を書く。音のコードと、命令のコード。しかも、どちらも最初は「意図しない音」や「バグ」から始まることがある。
システム開発では、完璧な設計図を描いたつもりでも、...

最近、私は創作の新しい扉を開くためにAI作曲ツールを試している。目的はただひとつ、頭の中のアイデアを形にすること。ところが、ただの作曲支援と思っていたAIが、予想以上に私の感情や思考を映し出す鏡のようになったのだ。
ある日、テーマもジャンルも決めずにAIに音楽を作らせたところ、できあがった曲はどこか...

朝の通勤ラッシュ、駅のホームはいつも慌ただしい。人々はスマホを見ながら歩き、改札に向かう足音が無秩序に混ざり合っている。その中で、私はふとホームの端にある古びたベンチに目を留めた。長年使われているそのベンチには、無数の傷や刻印があり、まるで過去の時間が積もってできた地図のように見える。
座ってみると...

深夜、街の外れにある古びた公園のベンチに腰かけていたら、風が運ぶかすかなメロディに気づいた。最初はただの風の音だと思ったのに、耳を澄ますと小さな旋律が確かに存在する。近づくと、月明かりに照らされた水たまりの表面が微かに震え、音の源であるかのように光を揺らしていた。
興味本位で公園の奥に進むと、そこに...

ある夜、部屋に一人で座っていた。窓の外では街灯の光が淡く揺れ、遠くからは小さな車のエンジン音が聞こえる。私はヘッドホンを装着し、いつもより少し変わった曲を再生した。ビートは不規則で、メロディはまるで空気の中で漂っているかのように柔らかく、しかし一瞬ごとに鋭く刺さる。音楽はいつも私に影を見せる。人間の...

朝、窓の外で鳥がさえずる音を聞きながら目を覚ました。ふと昨日作った曲を思い出そうとするが、なぜか頭の中で一部のメロディが抜け落ちている。完全に消えたわけではなく、指先で鍵盤を触れた瞬間にだけ、かすかに響く。その瞬間、音楽と記憶の関係について考えざるを得なかった。
私たちは日常生活の中で、無意識に音を...

雨が降るたびに街角の路地に現れる、誰も知らない小さなカフェがある。そのカフェは、外から見るとただの古びた建物に見えるが、足を踏み入れると別世界が広がる。窓ガラスに雨粒が流れる音と、木製の床が放つ温かみのある香りが混ざり合い、都会の喧騒から切り離された特別な空間がそこにある。
このカフェでは、注文する...

僕が歩く街角には、誰も気に留めない音が満ちている。車のブレーキ音、猫が石畳に跳ねる足音、カフェの扉が開くときの微かなきしみ。普段は雑音として流れていくそれらの音が、ある日突然、僕の創作意欲を刺激した。メロディの断片は、現実世界に隠れているのだと気付いた瞬間だった。
その日から僕は「消えた音符」を探す...

目を閉じて深呼吸をすると、耳に届く旋律の中に微かに香りが混ざってくるような気がした。決して夢の中の話ではなく、ある日の音楽ライブでの出来事だった。音と匂いが混ざり合う体験は初めてで、心の奥にある感覚の扉がそっと開く瞬間だった。
私はずっと音楽を聴くとき、メロディやリズム、歌詞に意識を集中していた。し...

ある夜、部屋の明かりを消して窓の外を見ていたら、ふと音楽のコードが夜空に浮かんでいるように感じた。星たちが一つひとつ音符のように並び、月はゆっくりとメロディを奏でる指揮者のようだった。普段は目に見えない音の流れが、空にそのまま現れた瞬間だった。
その夜から、部屋にいる時間はただ過ぎていくのではなく、...

ある日の午後、作業部屋で資料整理をしていると、窓際にいた猫が突然キーボードの上に飛び乗った。普段ならただの邪魔者だと思うところだが、その瞬間、私はふと気づいた。猫の無秩序な動きや予測できない仕草こそ、創作に必要な「予想外」のエッセンスなのではないかと。
キーボードの上でゴロゴロと鳴く猫を見ながら、私...