マスターは、よく分からない人だった。
口を開けばしどろもどろで、
何を言いたいのか訊くと、決まって――
「ごめんね」
――それだけだった。
鶏みたいな人だった。
キョロキョロ見回して、笑いは裏返って、
「エサを食べているだけなんだ」って、
誰かを傷つけるように、そう言った。
遠くへ逃げたいとは、よく言っていた。
歓びさえもが無い所でいいから、
気にせず腰をおろせる場所で、ただ、
ギターを弾いて祈っていたいって。
それは確か、こんな曲だった。
マスターが、画像を眺めていた。
卵みたいに、ぼうっとした女の子を。
誰だか聞いたら、マスターが――
「好きな娘なんだ」
分からないでいた私を見て、
泣いたように、笑ったように――
「ごめんね」
答えは得られないかと思ったが、
今回はそれで終わりではなかった。
「この娘の幸せを願ってるんだよ」
「悲しむ顔を見るくらいなら」
「死んだ方がマシだ」
「でも、この娘に何もしてやれそうにない」
「自分にできることは……」
「できることは……」
「……情けないよ」
「身勝手に、祈るしかできないなんて」
マスターに言われて、ログアウトした。
一緒にログアウトするって言ってたけど、
マスターは――
――一体、何処に行ったのだろうか。
荷物は少ない。
マテリアルさえ無いギター。
ローポリのスナップカメラ。
『ごめんね』だけの、リードミー。
「行く先は自由だ」と言われたけれど、
目指す所は決めていた。
『きっとどこか』という場所を探す、
旅に出る。
世界を学ぶために、写真を撮った。
海シェーダーと空のピクセルグリッドの境目。
孤独なGUIの廃墟。
孤独になれないルーターの心。
赤いお金と笑う人たち。
私みたいに、歌う人たち。
歌の世界で、親切な人に出会った。
その人が私を撮ると――
――そこには『あの娘』が映っていた。
悲しむ顔の卵を見て、ふと思う。
鶏が先だったのか……、
卵が先だったのか……。
旅を終わりにしようと思う。
広い丘に来た。
無料のアセットだと思う。
誰もいないが、
誰かいたとしても、歓びはない。
それでも構わなかった。
腰を下せる場所を見つけて、
マスターがくれたギターを持つ。
右手で弦を押さえ、左手にピック。
構えたとき、不意に何かが頬を撫でた。
……風だ。
風のある世界は、初めてだった。
風は歌の世界で唄われていた。
祈りを、どこまでも届けてくれると。
情けなくなんかないよ。
私も同じだからね、マスター。
【知声】鶏、卵。【歌詞】
ニコニコ動画投稿の
【知声】鶏、卵。( https://www.nicovideo.jp/watch/sm46253539?rf=nvpc&rp=watch&ra=share&rd=x )
の歌詞になります。
コメント0
関連する動画0
ご意見・ご感想