街の明かりが消えかける頃、私は屋上に腰を下ろし、夜空を見上げる。空気はひんやりとしているのに、どこか音楽のような匂いが漂う。目を閉じると、ビルの谷間を抜ける風が、まるで誰かが演奏する無言のメロディのように耳をくすぐる。昼間の喧騒とは打って変わり、世界が静寂に包まれる瞬間、この夜空の景色は私だけの秘密のステージになる。
小さな望遠鏡を取り出して、星々を覗き込む。光の点々が瞬くたび、過去の誰かの記憶や物語が一瞬だけ立ち上がるようで、胸がざわつく。星座をなぞる指先が、子供の頃に憧れた宇宙の冒険を思い出させる。天文学書に書かれた冷たい知識とは違い、この夜の星は温かく、まるで語りかけてくる存在のようだ。
ふと視線を下ろすと、街灯の光に照らされた通りが、まるで夜空の星座の延長のように見える。高層ビルの窓からこぼれる光が、天と地をつなぐ橋になり、目の前の街も宇宙の一部に変わる瞬間がある。日常の景色が、ほんの少しだけ神秘的に見えるのだ。
ここで私はいつも、音楽を流さずに、自分だけの旋律を感じることにしている。風、星、遠くで鳴る車の音や犬の声、それらすべてが一つの曲に溶け込む。誰も聴くことのない、この無言のオーケストラは、想像力を自由に羽ばたかせる舞台でもある。
考えてみれば、日常の中にはこうした小さな奇跡が無数に潜んでいる。カフェの窓際で揺れるカーテンの影、路地裏で見つけた古いポスター、誰も気づかない花の香り。それらを拾い集めることで、日常は少しだけ特別になる。夜空に浮かぶ星のように、ささやかな光が私たちの心を照らすのだ。
だから今日も私は屋上に座り、無言のメロディに耳を傾ける。星も風も、そして街の音も、すべてが語りかけてくる。言葉にできない気持ちや、日々の些細な感情が、夜空の旋律に溶け込んでいく。そんな瞬間に出会うたび、世界は広がり、心は豊かになる。
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