「露命哀奏曲」
(1A)
岩を打つ風に立つ波は
心さえただ砕いて散り咲く
例え今割れて分かれても
またいつか末に会うの
(1A')
筑波嶺の峰から流れる
この想い積もり淵となりぬる
もぢずりの乱れた心は
全て貴方のせいなの
(1S)
秋の夜(よ)の月影見れば
悲しい風が吹き抜けて行く
我が身一つのすみぞめの夜
今宵限りの命ともがな
(1B)
貴方の隣 過ごした日々の
昔はものを思はざりけり
悲しくなるのは愛しいから
逢ふことの絶えてしないならば
(2A)
葦のよの短すぎる夜
かりねするよな暇(いとま)もないほど
忘らるる私のことなど
思はぬのに恋しいの
(2S)
片敷きの衣の袖に
もう 少しだけ慣れてしまって
嘆いて過ごすあくる夜明けが
いかに久しいものか知ってる?
(2B)
貴方と二人 過ごした日々の
昔はものを思はざりけり
切なくなるのは愛したから
逢ふことの絶えてしないならば
(3A)
乱れては物をこそ思ふ
長(とこ)しなの黒き髪と心と
己(おの)が緒よ 絶へるなら絶へね
永らへば弱まるだけ
(3A')
分かぬ間に雲に隠れにし
夜半の月影のような貴方に
難波潟 みをつくしてでも
会いたいと思うのです
(3S)
逢はで世を過ごせと言うの
恋しき人を忘れやはする
貴方を思ふこの心さえ
裁てるのなら何も望まない
(3B)
貴方の傍で過ごした日々の
昔はものを思はざりけり
切なくなるのは恋したから
逢ふことの絶えてしないならば
「露命哀奏曲」
小倉百人一首からとった和歌で作ってみました。
1Sの「すみぞめ」は「墨染」と「住み初め」、
2Aの「(葦の)よ」は「夜」と「節」、
2Aの「かりね」は「刈り根」と「仮寝」、
3A'の「みをつくし」は「身を尽くし」と「澪標」、の掛詞です。
また、2Sの「片敷きの衣」は、一人寝のことです。
それから、3Aの「髪」と「心」は「乱る」の、「緒」「永らふ」「絶へる」はそれぞれ縁語です。
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