幾徒は例の銃を取り出すと目の前のテーブルに置いた。ガラスと言うより氷で出来ている様な青白さ、そして心なしかぼんやりと光っている様に見える。

「芽結から何処まで話を聞いてる?言魂について説明は?」
「あ、大丈夫…だと思う…。何と無くは解ってる。」
「『言魂』は俺達【Wieland】が何年も研究、製作していたシステムだ。主な目的は
 大規模災害に置ける救助や人命に関わる事故等。勿論使い方を間違えれば武器にも
 なるから管理は徹底していたんだが…。」
「過去形なんだ?」
「残念ながらね。…半年位前、調整中にウイルスが入ってシステムの根幹のAIが一部
 破壊された。制御を受け付けなくなったAIは暴走して『言魂』を実行、展開させ…
 生まれたのが『文字化け』だ。」
「そのAIを壊せば止まったりするんじゃないのか?」
「壊せれば…ね。」

幾徒は自嘲気味に笑うと小型のPCを取り出した。ピアノでも弾く様に素早くキーを打つと画面ごとPCをこちらに向けた。画面は水面の様なモヤモヤとした物が映っている。

「何だこれ?」
「来るぞ…驚くなよ?」

訳が判らず画面に目を戻した時だった。さっきまでのモヤモヤに急に墨の様な影が広がったと思うと、叫ぶ様な声…もう声とも言えない様な『音』が響いた。

「うわっ…?!」
「今日は一段とご機嫌斜めだな…。」
「な、何だこの音…耳が…!」
「見ろ。」

耳を覆いながら画面を見ると、ノイズ混じりの画面に人影の様な物が映っていた。カラスの様に真っ黒な翼に、ボロボロに欠けた身体の女の子が両手でこめかみを押さえて苦しそうに泣き叫んでいた。と、幾徒がプログラムを終了させ、画面は元に戻った。

「今のがAI…?」
「だった、と言うべきだな。システム制御AI.№01。通称『幎』本来なら白い翼で天使
 の様な外見で作られていた。だが暴走してからグラフィックは愚かシステムの修復
 すらままならなくなった。加えて制御コードの一部はネット上に流出し、AI自体を
 破壊する事も出来ない。」
「どうすれば止まるんだ?」
「制御コードを見付け出してAIを修復し、『言魂』で破壊するしかない。けど今の所
 必要な適合者は見付からず、制御コードも網に掛からずお手上げ状態って訳。」
「…ダメじゃん。」
「そこにお前が見付かった訳だ。」
「はぁ。」
「テンション低いな~。取り敢えず適正武器どれか判んないから全部持って
 来たんだよ。」

お菓子でもばら撒く様にテーブルの上に無造作に青白い銃がバラバラ積まれた。希少な物なんだろうけど何か有り難みが全く無い気がした。学園長室でテーブルの上に銃が山積み、B級映画のワンシーンみたいだな…。

「どうしろと?」
「取り敢えず一個ずつ手に持ってみ? 相性の良い武器持つと光るから。」

俺は深い溜息を吐くと、諦め半分にその銃を一つ一つ手に取って行った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

コトダマシ-10.どうしろと?-

まるで取引現場

閲覧数:76

投稿日:2010/10/14 14:10:23

文字数:1,204文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました