すっかり暗くなった外に無機質なネオンやライトが点った。何も変わらない景色が酷く懐かしい。あの白い世界から放り出されて、色んな記憶が洪水みたいに押し寄せて、気が付いた時には時計台の前に立っていた。足の向くまま、記憶を頼りに【Wieland】へ向かった。建物こそ変わっていたけどスタッフや、皆は同じだった。扉を開け放った時、芽結が倒れてて、皆は凄く驚いて、だけど凄く喜んでた。涙を流して喜んでくれるなんて思わなくて、こっちがびっくりした位だ。
「…体調は良いのか?」
「うん…そっちこそ休まなくて良いの?無理してるって鳴音さんが心配してたけど?」
「あいつは心配性だから。」
「そうかな?」
「俺にとってはね。」
浅く笑って振り向いた幾徒は少し疲労の色が見えた。すぐはぐらかして影で無理する辺りは頼流と似てる。上手く隠してるけど、絵襾を通して見て来た今なら判る…判ってしまう。
「死んだりしないよね?」
「ん?」
「『言魂』が兵器利用されて、何万人も犠牲になって…そんな世界俺だって嫌だけど…でも、
幾徒や皆が死ぬのも同じ位嫌だって思うよ。現に鳴音さん泣いてたのだって…っ?!」
言葉を遮る様にぐんと肩を引き寄せられた。掴んでいる手には力が篭ってて、微かに震えてる。
「…幾徒?」
「悪い…少しぬいぐるみになってて…。」
一瞬泣いてるのかと思う程弱々しい声に驚いた。いつも自信たっぷりで何でも出来て飄々としてて、俺にとって幾徒はそう言う強い奴だったから。
「よしよしイイコイイコ。」
「…おいコラ、流船…野郎に頭撫でられても嬉しくないんだけど?」
「うん、俺も抱っこするなら芽結が良い。」
「ずっと泣き通しで寝不足だったみたいだから、俺に構ってないで芽結の側に居てやれ。」
「父…絵襾が言ってた、このペンダントと頼流のタイピンに手紙があるって、戻ったら幾徒に
教えれば何とかなるって。」
「え…?」
ペンダントを幾徒に渡すと同時に携帯が鳴った。
「あ、電話…えっと、とにかく伝えたから!」
「ちょっ…待て!流船?!」
電話は部屋で眠っていた筈の芽結からだった。目が覚めて一人だったから恐くなったらしい。静かな廊下を話しながら足早に戻ると、ソファの上で縮こまってる芽結が居た。
「流船…!ご、ごめんなさい!あの…起きたら真っ暗で…急に怖くなっちゃって…
ごめんなさい!いつもは全然平気で…何か、でも、恐くて…!」
「芽結。」
「…はいっ…!」
「無理しないで、して欲しい事とかあったら言って、泣きたいなら我慢しなくても良いから…。」
「……え…あ…えと……て…手…。」
「ん?何?」
「手…繋いでも良い?」
泣き虫のクセに涙を一生懸命堪えて、芽結の顔は耳まで真っ赤だった。この手に、この頬に、髪に、瞼に、唇に、どれだけ触れたかったか判らない。少し痩せたのか、前よりもふわふわして頼りなくて、でも凄く温かい。安心したのか芽結は柔らかい笑顔でぽつりと言った。
「流船に会いたかった…凄く会いたかったの…。夢みたい…ねぇ、これ夢じゃない?また…
消えたりしない?」
「しないよ。」
「…本当?本当に?」
「うん…。」
何度も手を繋いだ。何度も、何度も、何度も…まるで互いの存在を確かめるみたいに。
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