古閑俊光です。趣味の小説を投稿します。
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真夏の太陽が容赦なく照りつける中、駅のホームには汗をぬぐう人々が並んでいた。そんな中、一人だけ長袖のシャツを着た青年が静かに電車を待っていた。彼の名は涼介。気温はすでに35度を超えているというのに、彼の姿はどこか涼しげだった。

「あんな厚着して、暑くないのかな?」

近くに立っていた女性が、小声で友人に話しかけた。それも無理はない。半袖やタンクトップ姿の人々がハンカチで汗を拭く中、涼介は涼しい顔をしているのだから。

電車がホームに滑り込むと、乗客たちは我先にと車内へ流れ込んだ。涼介はゆっくりと乗り込み、端の席に腰を下ろした。車内は冷房が効いているものの、それでも汗ばむような暑さだった。

「すみません、暑くないですか?」

隣に座った中年の男性が、思わず声をかけた。涼介は少し驚いた顔をした後、微笑みながら答えた。

「ええ、慣れているので大丈夫です。」

「慣れてるって……? その長袖、何か特別な理由が?」

「まあ、ちょっとした理由です。」

涼介はそう言って、話を打ち切るように窓の外へ視線を移した。

電車が動き出すと、風景はゆっくりと流れていく。彼の視線の先には、昔住んでいた街の景色があった。子供のころ、彼はひどく肌が弱く、日差しを浴びるとすぐに赤くなり、ひどいかゆみに襲われた。そのため、どんなに暑い日でも長袖を着るのが習慣になった。

幼少期の彼にとって、それは避けられないことだった。しかし、周りの子供たちからは奇異の目で見られた。

「なんで長袖なんだよ、暑そう!」

「もしかして、変な病気?」

そんな言葉をかけられるたびに、涼介はうつむいた。母は「気にしなくていいのよ」と優しく言ってくれたが、幼い心にはその言葉が届かなかった。だからこそ、彼は次第に人と距離を取るようになった。

だが、大人になった今は違う。長袖を着る理由をいちいち説明しなくても、自分のスタイルとして受け入れられるようになった。暑い日でも涼しげな顔をしているのは、もうそれが自分の一部になったからだ。

電車が次の駅に到着し、涼介は立ち上がった。

「それじゃあ、失礼します。」

彼は軽く会釈し、電車を降りた。駅の外は変わらぬ猛暑だったが、彼の歩く姿はどこか涼やかだった。

それをホームから眺めていた中年の男性は、ふと自分のシャツの袖を引っ張った。

「たまには長袖を着てみるのも、悪くないかもしれないな。」

彼は苦笑しながら、再び座席に深く腰を下ろした。

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古閑俊光の小説②「暑い日に長袖を」

古閑俊光です。趣味の小説を書きました。

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投稿日:2025/03/05 17:23:29

文字数:1,061文字

カテゴリ:AI生成

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