「私…やっぱり戻る!何かあいつ心配だから!」
「りんご先輩?!」

大通りへ出た私達に背を向けると、りんご先輩は来た道を走って戻った。追いかけようと思ったけど、あの得体の知れないBSへの恐怖が脚を留めてしまった。

「すみません…リヌさん…。私がもっと早く発信機に気付いていれば…。」
「そんな事…!だって、ほら、あんなのが発信機だなんて普通思わないし、
仕方無いって言うか…!」
「それで万一の事があったらどうするんですか!」

荒げた声に身が竦んだ。翡翠さんはハッとして口を覆うと俯きがちに言った。

「すみません…だけど…これは私の責任です。貴女を救い出した事に、貴女が
 私の側に居てくれた事に嬉しくて気が緩んでいた私の不覚、一晩中貴女の一番
 近くに居た私が気付くべきだったんです。」

自分の頭から湯気が出ているんじゃないかと思った。勿論そんな場合じゃないのは判ってるつもりなんだけど、嬉しかったとか、一晩中近くに居たとか言われると顔がカーッと熱くなって翡翠さんをまともに見れなかった。と、突然携帯が鳴って心臓が止まりそうな程びっくりした。

「もしもし…お母さん?」
「リヌ?!リヌなのね?!ああ…良かった…無事なのね?体調は大丈夫なの?研究所の
 方から貴女がBSになったって聞いてもうお母さんびっくりして…。」
「お母さん…うん…うん!」

一日会っていなかっただけなのにお母さんの声が酷く懐かしい気がして涙が滲んだ。良かった…私がBSになってもお母さんはやっぱりお母さんで居てくれるんだ!

「それで、リヌ、今何処に居るの?」
「あ、大丈夫だよ、体調も落ち着いてるし自分で帰ろうと思って…。」
「大変なんでしょう?無理しちゃダメよ、迎えに行くから貴方達はそこで待って
 なさいな。」
「うん、判った、あのね…今…。」

言い掛けた所で翡翠さんは私の手から携帯を奪い取り電話を切ってしまった。

「…翡翠さん?何を…お母さんが…!」
「貴女の母親は貴女を【MEM】に売りました。」
「え…?…や…ヤダなぁ、冗談…。」
「先程彼女は『貴女達』と言った。リヌさんは一言も誰かと一緒だとは口に
 してはいないのにですよ?」
「そんな…たまたまだよ!言い間違える事だってあるよ!」
「ならどうして今電話が来るんですか?爆破の事は即日で報道された、なのに何故今更、
 このタイミングで電話が来るんですか?」

携帯を握り締めた。私が事故に遭ってからどの位時間が経ったのかを思い返してしまう。メールも電話も無かった。着信は家の電話からだった。お母さんは家に居たんだ…。私を探していたんじゃなくて…家に…。

「今家に戻ればおそらく貴女は捕獲され収容される。」
「そんな事…!だって…!そんなの…!お母さんだよ?!私を生んで育ててくれた
 私のお母さんだよ?!お母さんがそんな…!」
「…なら確かめますか?自分の目で…。」

そんなの嘘だよね…?帰ったら、いつもみたいに笑って『リヌ、おかえり』って…言ってくれるよね?お母さん…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -60.お母さん-

ただいまを言うから おかえりを聞かせて

閲覧数:164

投稿日:2010/06/19 19:41:37

文字数:1,269文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • 遊羅@右肩逝きかけ

    うちのおかんは「迎え来てー」って言うと大抵「んじゃぁ帰ってこなくていいよ」ってゆーおかんです…

    いらん話さーせんwwww

    2010/06/19 19:47:40

    • 安酉鵺

      安酉鵺

      >アミルスさん
      ( ・ω・)ノ(・Д・ )ヨシヨシ

      >thepleiaさん
      ウチの母は先に寝てるタイプですな?w

      2010/06/19 20:11:53

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