私はある雨上がりの夕方、街を歩いていた。舗道に反射する街灯の光が、まるで小さな星々のようにきらめいている。手にはイヤホンを差し込み、普段通りの音楽を聴こうとした瞬間、ふと角を曲がると一匹の猫がこちらをじっと見つめていた。黒と白が混ざった毛並みの猫で、まるで私に何かを伝えようとしているかのようだった。
猫は雨で濡れた石畳を小さく跳ねるように歩き、音を立てる。そのリズムが不思議と私の耳に心地よく響き、音楽のビートに合わせるかのようだった。私は歩みを止め、その小さな足音に耳を澄ませる。すると、普段気にしていなかった街の音、車のエンジン音、遠くで鳴る自転車のベル、雨滴のしずくが奏でる音が、まるで一つの曲になって耳の中で重なっていくことに気づいた。
私たちはいつも、音楽をイヤホンやスピーカーから取り入れることに慣れすぎて、身近な音の可能性を見落としている。猫の歩くリズムに気づいた瞬間、街全体が楽器になったように感じられたのだ。足音や雨音を聴き取り、目に見えるもののリズムを感じると、創作のヒントは思いがけない場所から生まれる。
猫は私の視線を一瞬だけ返すと、路地の奥へすっと消えていった。その背中を追いながら、私は音楽の新しいアイデアを思いついた。例えば、日常の雑音をサンプリングして曲を作ること、見過ごしていたリズムを抽出してメロディに変えること。創作におけるインスピレーションは、特別なものではなく、身近な出来事や偶然の出会いから生まれるのだ。
その日、私は雨上がりの街で立ち止まり、目に映る景色と耳に届く音を丁寧に拾い集めた。猫が教えてくれたのは、音楽とは人間が作るものだけでなく、日常の中に潜むリズムを感じることから始まるということだった。次に曲を作るとき、私はイヤホンを外し、街の声に耳を傾けようと心に決めた。偶然の出会いと観察が、これまで見過ごしていた創作の扉を開くのだ。
歩きながらふと空を見上げると、まだ雨の匂いが残る空気が心地よく、猫の小さな足音が私の心にリズムを刻んでいた。創作とは、特別な場所や道具ではなく、日常の中の小さな気づきと偶然から生まれるものなのだと再確認した瞬間だった。
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