目が覚めると、まだ五時だった。既に日は昇っている。もう夏なのだ。
 頭ががんがんと痛かった。昨日、家に帰ってきたときのままの服装で、髪も解かず寝てしまった所為で、髪も服もぐちゃぐちゃである。二日酔いってこんな感じなのかな、と考えたが、分かるはずもなかった。
 とりあえず、制服に着替えた。少し早いが、朝食と弁当を作る時間が増えたと思えばいいだろう。

 朝の五時から作った俺とリンの弁当は、明らかに豪華だった。いつもより彩りや栄養に気を配る時間があったおかげで、余裕を持って作ることができたからだ。
 今日はリンも仕事を休み、学校に行くらしい。そんなことも、弁当に力が入った理由の一つかもしれない。
 七時半になり、着換えたリンがリビングにやってくる。用意してあった朝食は、ご飯よりパン派のリンのため、トーストと牛乳とハムエッグだ。ちなみに、俺はご飯派なので、既に白米と焼き鮭、番茶で朝食は済ませてある。
「美味しそー!」
 食卓に着き、両手を合わせていただきます、と言ってからパンにかじりつく姿から、昨日までの人気ぶりは想像できない。
「リン、ちゃんと髪直しなよ」
「はーい」
 言いながらゆっくり食事をしているリンの髪を梳かしてやる。リンの髪は俺より硬くて、寝癖になりやすい。丁寧に髪を梳かし、前髪をヘアピンで留め、大きなリボンをつけてやる。勿論、有名人だということがばれないように、俺とおそろいのめがねも忘れない。伊達だが。わが姉ながら、この上ない可愛さ。
 制服がこれ以上に会う奴もいるまい。…って、これじゃあまるで、シスコンの変態じゃないか。首をぶんぶんと振って、考えを打ち消す。
「どしたの、レン」
「な、なんでもないっ! ホラ、早く食べて。片付けるから」
「はーい。流石レン、髪もきれいになってる」
 言いながら、リンは皿をキッチンに提げる。俺がそれを軽く荒い、職千機に入れて、スイッチを入れる。
 KGMNの社長の子供たちがこんなに普通の生活をしていることを他人が知れば、大分驚くだろう。まあ、普通よりかはいい生活をしているにしても、世間の予想では、メイド、執事が何人もいる、超豪邸だろうが、実際はそうでもない。
 まあ精々、週末にお手伝いさんが来てくれたり、夕食は三ツ星レストランのシェフたちが作ってくれるというくらいで、後は家の大きさは普通だし、立地もごくごく普通。まあ、ごくごく普通の――。

「それ、普通っていわない」
 学校で、おれの前の席に座っていたミクが、いった。
「いや普通だろ。お前の家どんだけ貧乏なのよ。なあ、リン」
 隣の席にいるリンにいうと、リンが頷いて、同調する。更にミクは顔をしかめて、リンと俺の二人に向かって、
「二人とも、根本から金持ちなのねぇ」
「んなことないって」
「そうそう」
 俺たちが頷きあうと、ミクは深くため息をついて、打つ手なし、と言うようにお手上げのポーズをとった。
「大体、金持ち・可愛い・性格いいって、どっか欠点無いの?」
「リンは馬鹿だぞ」
 可愛さについては、圧倒的だけどな、と心の中で付け加えると、
「レンは口悪いよ」
 とリンが言った。
「馬鹿。可愛いって時点で俺じゃねぇだろ」
 言いながらリンをたたくと、今度はミクが
「金持ちと性格いいは否定しないのね」
「本当のことだからな」
「うざっ!!」
 リンとミクの声が綺麗に重なったのだった。

「事務所の社長がさ、レンも一緒にユニットとして活動したらどうかーってさ」
 帰り道、リンがふと思い出したように言った。
 この間のライブに俺を出したのはそのためか、と気づき、俺はミクに負けない深いため息をついていた。すると、リンは困ったように、
「レンだって歌うの好きでしょ? うまいし。レンとライブ、またやりたいなぁ」
 どうやらすっかり二人でライブをすることによってしまっているらしい、リンはうっとりと宙を見ている。こうなったリンには何を言っても聞きやしない。
「別に俺、芸能界興味ないし。生徒会忙しいし」
「レンとライブ…楽しかったなぁ…うふ」
 ほら、聞いてない。
 仕方ないので、リンはリンの妄想の世界を楽しませてやることにして、俺はすたすたとリンを置いて家路を急いだ…。

 夕食の後、テレビをつけると、リンが映っていた。ついこの間出した、新曲だと言っていた。
 テレビの小さな画面の中でリンは、黒い衣装に身を包み、クールな表情でロックを歌い上げていた。迷いが混沌を生み、すべてを壊す、そんな歌詞だった。まさに今の俺だと思うと、テレビの画面を直視できなくなった。
 芸能界には興味がない。と、リンにいったが、おれ自身、芸能界に興味がないのか、今でもよくわかっていない。リンが初めて芸能界に入ったころ、少しだけ楽しそうだと思ったのを良く覚えている。そのときは、ただ、純粋に…。
 後ろでリンがその曲を口ずさんでいた。
「歌詞がちょっと怖いけど、カッコいいよね」
 と、笑った。俺は、聞こえなかったフリをして、部屋に戻った。
 このごろの俺はおかしい。
 変だ。
 リンに嘘をついている。
 俺に嘘をついている…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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FOR YOUR HEARTS. 6

こんばんは、リオンです。
この学校行きたいです。
双子がいてミクがいて、先生は年長組で、ちゃんと授業してくれなくて、
浮いた噂しか立たない紫の校長がいる。
そんな学校に、行きたいです!!!(知らん

閲覧数:184

投稿日:2011/07/02 23:39:52

文字数:2,124文字

カテゴリ:小説

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  • 日枝学

    日枝学

    ご意見・ご感想

    読了! 良い感じにレンが自分に対して疑問を持ち始めていますね
    レンの感情の変化が、実際に同じ境遇で同じ立場の人間がいれば同じようになるのだろうなと思わせることができるぐらい、無理なく自然に描写出来ているのがとても良いと思います。
    また、ぜひこの学校に通いたかったものです(※おい

    2011/07/03 06:33:15

    • リオン

      リオン

      今回もありがとうございます!
      レン君には等身大の男の子を演じてもらいたいと思っています。
      少し人と違う、でも他はごく普通の少年少女な鏡音が大好きなのです。
      編入するためにはどれくらいの賄賂があればいいんだろうか…(ぉぃ

      2011/07/03 21:23:34

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