はじまりは、入学式の日だった。
意気揚々と桜のアーチをくぐり抜け、これから始まる中学校生活に胸を膨らませ、喜びと、どこか不安げな、複雑な表情を浮かべ、すこし大きめの制服を着た1年生が、入学式の会場の体育館へと足を運ぶ。
そんな中、私の目に留まった、1人の男子生徒。
背格好からして、彼もきっと1年生だろう。
しかし、私の目に留まった理由はそんなことではなく、ただ単に彼が、俗に言う「イケメン」だったからなのだ。
スッと通った目鼻立ちに、整った顔つき、どこか大人びていて、笑みを含んだ独特のその表情に、目が離せなくなった。
『かっこいい。』思わず口にしそうになったその言葉を、私はそのまま飲み込んだ。
彼は体育館へ向かう1年生の列から外れ、椅子を運ぶ女子の先輩、多分2年生くらいだろうか、にむかって叫んだ。
「せーんぱい!めっちゃ可愛いですね!俺と付き合いません?」
ざわっとざわめきが起きるのも気にせず、彼はにこにこと少年特有の無邪気な笑顔で笑いながら、顔を赤く染めて走ってゆくその先輩に手を振る。
私の口は、ぽかんと開いたままだった。
一瞬でもかっこいいなんて思ってしまった自分に後悔する。
まさか、彼が私の一番嫌いなタイプ・・・、つまり、女たらしだったなんて!

「会長!」
2年になった春。
「ああ、グミ。どうしたの?」
私、鏡音リンは、生徒会長となった。
この子は後輩のグミ。
可愛くて、気さくで、気もきいて、自慢の副会長だ。
「あ、そうだ会長・・・。あのぉ、鏡音レン先輩のことですけど・・・。」
私が生徒会長になった理由。
それは、
「あのぉ・・・、他中の子とまたトラブルになっているみたいで・・・。」
「・・・はぁー・・・。」
鏡音レンを真人間にすること、だ。
でも、一方の彼はまったく、いや寧ろ女たらしがエスカレートしている。
教師も教師で、この学校には●八先生のように熱い教師はいない。
いるのは強烈な香水の香りを漂わせ、いや臭わせている酒好きの女教師や、年中アイスしか食べないヘタレな男教師。
自由な校風、といえば聞こえはいいが、ふたを開ければただの放任主義な学校だ。
そんな中、彼を叱るようなもの好きはいないわけで。
私の頭痛の種は増える一方である。
「まったく・・・、あんの女ったらしのおたんこなすううう!!!」
「せせせ先輩っ落ち着いてくださいっ」
息を荒らげる私を、グミが困ったように宥める。
・・・とそこに、歌うような軽い調子の声がかきある。
「そうそう、落ち着きのない子は嫁のもらい手がなくなっちゃうよ♪あ、俺が貰ってあげようか?リンちゃんなら可愛いし、大歓迎だよ?」
条件反射的にばっと振り向く。
・・・やっぱり。
「か、鏡音レン!」
「ひどいなぁ、リンちゃん。女たらしとかおたんこなすとか。・・・あ、もしかして俺にかまってほしい?ツンデレなの?いっとくけど、俺予約制だから♪」
自慢げにひらひらと両手を振ってみせる。
「そ、そんなわけないでしょ!その自意識過剰、どうにかしなさい!」
と、私の叫びもむなしく、彼の視線は隣のグミへと移っていた。
「はじめまして♪ 君1年生?可愛いね。モテるでしょ?」
「い、いや、あのぉ・・・。」
可愛そうにおびえきったグミは、私に視線で必死に助けを求める。
「ねぇ、今日暇?俺と遊ばない?俺、女の子は退屈させないよ?」
私はグミと彼の間に入り、キッと彼をにらみつける。
「遊・ぶ・わ・け・な・い・で・しょ!!!鏡音レン!あなた、また他中の子とトラブル起こしたのね!?」
「ああ、あれね。あれはあの子が勘違いしただけだって。大丈夫大丈夫。あとであの子とも遊んであげるからさ。」
「そういう問題じゃ・・・ちょ、ちょっと、待ちなさい!」
といい終わる前に、彼の姿は廊下の角に消えていった。
「リンちゃん、グミちゃんまたねー♪」

それから何日かたったころ。
「いや、だから、ね?私は別に鏡音レンのことなんか・・・」
私は、体育館の裏で女の子達に囲まれていた。
真っ青に晴れた空が、今はなぜか憎らしい。
「だからさぁ・・・。目障りだっつってんの。レンに近づくんじゃねぇよ。レンだって困ってんだよ。」
いや、むしろ困ってんのは私なんですけど!
・・・といいたいのをこらえて、私はとりあえずへらへらと笑っていた。
「えーっと、ご、ごめんね?」
「・・・はぁ?なめてんの?」
「ふざけんじゃねえよ。勉強しかとりえのない生徒会長サマが。」
瞬間、私の中の何かが音を立てて壊れた。
次に気づいた時には、もう遅い。
「・・・なんだと?黙って聞いてりゃぐちぐちぐちぐち。年増のばばぁか?てめぇらこそふざけてんじゃねぇぞ。まずなんなんだその格好は!?生徒手帳見てみろ!そこのお前のセーター!指定色のを着ろ!そこのお前も!装飾品は一切禁止だ!そもそも体育館裏なんてベタすぎるだろ!もっと場所を選べ!ってゆうか鏡音レンに迷惑してんのはこっちなんだよ!鏡音って言う苗字かぶってんだよ!こういうとき双子って設定不便なんだよ!つーか作者!お前ちょっとは捻れよ!鏡音リンレン知らない人とかもうこれ意味不だろ!それとなんで鏡音レンのセリフの最後に「♪」←コレつけんだよ!意味わかんねぇよ!」
しん、とあたりが静まり返る。
・・・やってしまった。
実は、私は小さいころから、キレると手につけられないほど本音をいってしまう癖があるのだ。
おそるおそる、彼女達を見る。
「え・・・と、み、みなさん!こ、校則は守りましょう!ね!」
にこやかにいったつもりだが、彼女達は顔を真っ青にしていた。
「ご、ごごごめんね鏡音さん!」
「こ、校則もちゃんと守るから!」
一目散に逃げていった彼女達の背中を見送りながら、誰も居ない体育館裏に向かって、ぽつりと愚痴をこぼす。
「まったく・・・それもこれもぜええええんぶ、鏡音レンのせいよ!」
足元にあった石を、思いっきり蹴飛ばす。
すると、私しか居ないはずの空間から、聞き慣れた声が聞こえた。
「いてて・・・。リンちゃんひどいよ~。俺に恨みでもあるの?」
「か、鏡音レン!?ああああなた、なんでこんなところに・・・、というか・・・、もしかして、いやもしかしなくても、聞いてた・・・?」
「ん?」
キラキラと効果音が聞こえてきそうな笑顔。
・・・ああ。鏡音リン、一生の不覚。
「ってかさ・・・、リンちゃん、俺のこと、迷惑なの・・・?」
端正な顔が、すこし哀しげに近づいてくる。
「や、あの、迷惑っていうか、その・・・」
ぽたり、と手に冷たい感触。
「ば、ばばばばか!何泣いてんのよ!」
「リンちゃん・・・」
「・・・っ」
ぎゅっと目を閉じた瞬間、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。
「せんぱーい!リンせんぱーい!」
・・・グミ?
助かった、と私は彼の横をすり抜け、グミの元へと走った。
「リンちゃん!」
呼び止められた声に振り向くと、キラリと太陽に反射する、何かが手のひらに落ちてきた。
「め、目薬・・・?」
はっ、と気づき、顔を上げる頃には、彼はすでに余裕の笑顔を浮かべていた。
「騙されやすいと危ないよ?まぁ、顔真っ赤にしちゃって、可愛かったけどさ♪」
「か、鏡音レンーーーーッ!!!」

そして、今日も今日とて、恒例となった私の叫び声が学校に響く。
最近では、みんながおもしろがって茶地を入れてくるほどだ。
一向に進歩はしていないが、「こうして鏡音レンと関わるのも、一日の楽しみ・・・」
「って鏡音レン!あなた、勝手に私のセリフ変えないでよ!」
「えー?じゃあさ・・・、リンちゃんの本音、聞かせて?」
くい、と彼の手が私の顎をつまむ。
「んなっ・・・!?」
周りのギャラリー達が、一斉に野次を飛ばし、はやし立てる。
「わ、私は・・・。」
「「「私は?」」」
興味津々、と言った顔で、教師までもが集まってくる。
「~~~~~っ///」
耐えきれなくなった私は、全力疾走した。

「はぁ・・・、疲れた・・・。」
屋上の柵にもたれ、思いっきり深呼吸。
ほどよく冷たい空気が肺の中いっぱいに広がる。
ふ、と私の上に黒い影が重なる。
「はー、リンちゃん足早いねぇ。」
「な・・・、鏡音レン!」
なんでここに、と言おうとした口を閉じる。
「俺、聞いてないよ?リンちゃんの、本音。」
無言の時が流れる。
蒼く澄んでいて、それでいて強い光を放つ瞳が、私を映す。
目が離せなくなる。
「私、は・・・。」
入学式から今日まで、ずっと嫌いだと思っていた。
でも、彼と一緒に過ごした時間は、私にとって掛け替えのないもので、大切で・・・。
気がつくと、いつも余裕を絶やさない彼が、何故か慌てていた。
「え?リ、リンちゃん?な、なんで泣くの?」
・・・私、泣いてる・・・?
両頬は、涙の筋がいくつも出来ていた。
それを拭おうと出した手を、彼は一瞬だけ躊躇い、元に戻した。
「・・・ごめん。」
ぽつり、と消え入りそうな声で彼はそう言うと、私に背を向けた。
「っま、待って!」
彼は驚きを隠せない、というような顔で振り向いた。
一番驚いたのは私自身だ。
自分で自分の行動に驚いた。
「わ、私、鏡音レンのことが好き!」
「え・・・っ」
顔が赤くなるのが、自分でもよく分かった。
反応がない。
ちら、と顔を上げてみる。
「・・・っ」
「わあっ!?」
いきなり、彼の腕の中へと引き寄せられる。
「ちょ・・・っ!?」
「・・・駄目。今の俺、めちゃくちゃかっこ悪いから。」
そう言う彼の声は、微かに震えていた。
そっと腕の中から、彼の顔を見る。
「ぷっ・・・、顔真っ赤・・・。」
「ばっ///、リンちゃんだって真っ赤だろ?」
彼の鼓動が伝わってくる。
とくん、とくんと早いリズムで、それでいて・・・暖かい。

「・・・ねぇ、もう1回聞かせてくれる?さっきの。」
変わらない、余裕の表情。
「・・・っ好き!///」
「俺も。」
2人の影が、重なる。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

大嫌いな君との小さな恋。

前に投稿した「生徒会長との小さな恋 http://piapro.jp/t/ndGI 」のアンサーというか続編というか。
初めてこんな恥ずかしいもの書いた気がします。ええ。

高いスルースキルで全力でスルーしてやってください。(おm

閲覧数:620

投稿日:2011/03/29 15:13:19

文字数:4,081文字

カテゴリ:小説

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  • †B†

    †B†

    ご意見・ご感想

    リンの、まさかの作者に対する突っ込みw 
    素直に面白いと思いました!

    2011/04/05 11:43:40

    • 衣恋@ついった

      衣恋@ついった

      なんかもうリンちゃんのキャラ崩壊してますねw
      つっこまれちゃいました(←
      面白いですと・・・!?
      ありがとうございます!

      2011/04/05 12:09:54

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