1.滄海のPygmalion

 真っ青に透き通った海に向かって、岬が張り出している。
 風にあおられた短い草に覆われたその突端には、真っ白なサンダルの石像が一揃い、海を向いてしつらえられていた。
 白い大地のむき出しになった細い道が、岬のたもとから、そのサンダルの像のある岬の先まで続いている。草の中に引かれた一本線は、細いながらも埋もれることはなく、訪れる者が絶えないことを示していた。
 その白く細い、地面のむき出しになった道を、今、老婆と少女がゆっくりと岬へと歩を進めていた。

「ねえ、おばあちゃん。どうして、サンダルの像なんかあるの?」
 岬につづく草原の道を登りながら、小さな女の子は老人に尋ねた。
 老人はたちどまり、海から吹く風を聞くように背筋をわずかに伸ばした。
「そうねえ」
 老婆が尋ねる少女の前にしゃがみ、瞳をあわせてにこりと笑った。

「どうしてだと思う?」
「だって、サンダルだけなんて変だよ! 履いていた人はどうなったの?」

 少女の答えを聞いて、老婆は満面の笑みを浮かべた。
「お前はかしこいね。履いていた人がいると、よく思いついたね」
「だって、不思議でしょ? レンカおばあちゃん!」

 いよいよ老婆は楽しげに笑い、ぽんと孫娘の金色の髪を撫でて、先へ行こうと促した。再び岬へ向って歩を進め始める。

「ええ。不思議ですとも。……すごく、不思議な出来事が、あったのよ」
「うん……?」
 少女が首をかしげて老婆を見ると、老婆の瞳はまっすぐに岬の先を望んでいた。白いサンダルの像の先、海に張り出して消える岬の先へ。

「私もね、小さな子供のころに、よく岬へ遊びに行ったの」
 びゅうびゅうと海からの風が速度を上げて二人の耳を掠めていく。
 塩と砂と乾いた草の匂いが肌と衣服を洗っていく。

「そのころはね、」
 レンカの眼が、海を映して青く煌めいた。

「岬には、あのサンダルを履いた、女神の像があった」

 
         *        *

……つづく!  

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説『滄海のPygmalion』 1.滄海のPygmalion

発想元・歌詞引用 U-ta/ウタP様『Pygmalion』
http://piapro.jp/t/n-Fp

歌がすごく好きで!!まずは!!まずは原曲をお勧めします是非ッ!
……んで、『悪ノ』の時と同じくらい、超解釈を展開しようと思います☆


閲覧数:380

投稿日:2011/05/03 21:28:19

文字数:855文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました