――誠に申し訳ありませんが、本日をもって地球は終了します。
≪ヘッドフォンアクター 【自己解釈】≫
その日は、確か雪が降るんじゃないかってくらい寒かった記憶がある。
随分と平凡で当たり障りない一日だった。
「暇だなあ……」
私は机に手を当て、ラジオを聞いていた。だって暇だもの。
『――これで、正午のニュースを終わります。時間は12時半です』
ニュースキャスターが、ニュースを言い終え、時間を伝えた時だった。
その話が、流れ出した。
私は、その話のおかげで平凡な一日が破壊されていった。
『――非常に残念なことですが……皆さんには今まで伝えられなかったことに謝罪の意を表します。
本日……私がこの時間をお借りしたのは、これだけです。
非常に残念なことですが……本日をもって地球は終わります』
どこかの国の大統領が、泣きながら話をするまでは。
窓の外は飛行機がまるで大きな鳥のように覆い尽くしていた。地上の道路も渋滞していて大凡先ほどの演説でパニックに陥っているんだろうな、と思っていた。
飛行機はこう見ている間にも三日月を呑み込んでどこかへ向かってる。にしても量が多い。一体どこへ向かっているんだろうか?
「さて、」私は自分の周りを見つめた。
私の机の上は雑然としていた。
セーブをしていない携帯ゲーム機と、宿題であるまだ手を付けていない参考書。
私はそれを無視して、とりあえず外へ繰り出すために、震える身体をいなすように直ぐにヘッドフォンをした。
iPodに接続して、何か音楽を聴こうと思っていたのだが。
不意にiPodが謎のデータを映し出した。
『No.27 Title:enemy Artist:enemy』
「……?
なんだこりゃ。
こんなのあったっけ?」
そんなことを考える暇もなく、私の耳に私によく似た声が――聞こえた。
「生き残りたいでしょう?」
はっきりと、そう聞こえた。
蠢き出す世界会場を、摩天楼は波打つように揺れていた。
この声は紛れもない。どう聞いたって、聞き飽きた自分の声だ。
声は歌うように言葉を紡ぐ。
「あの丘を超えたら20秒でその意味を嫌でも知ることになるよ」
あの丘、とは通称『世界の涯』と呼ばれたあの場所か。私は無意識に頷いていた。
そして、声は強めに語気を高めて、言った。
「疑わないで。
耳を澄ませたら20秒先に」
私はまた、頷いてその声の言うとおりにした。
そのころ。
「……博士。実験の結果は?」
「まずいですね。
どこでプログラムを間違えたんでしょうか……?
処理がちゃんと為されていないのですよ」
「だれかがwhile文とif文を書き間違えてしまったのでしょう。
全く、どこの誰がそんなことをしてしまったというのだ。
そのせいで我々は……」
「いい、もう話すな」
「……すいません」
「ともかく、もう8月13日までのデータは取れた。
この際、14日と15日はどうでもいい。
強制終了させよう。
いつまでもこのコンピューターにこのメモリを使わせてしまってはパンクしてしまうからな」
『世界の涯』へ向かうべく、私はただただ走っていた。
交差点は当然大渋滞だった。どうやらトラックが交通事故を起こし、一人死人が出たらしい。
老若男女なんて、こうなったら関係ない。
道路は怒号やら赤ん坊の泣き声など耳を劈くものばかりで埋まっていっていた。
横目で道路を見やるとひどいものばかりだった。
暴れだす人。泣き出す少女。トラックには血がこびり付いていた。
あの人たちはさっきのラジオを聞いていないのか? とか思いながら私はまた前を向き走った。
ヘッドフォンからはそういうことをしつつも依然声は続いていた。
「あと、12分だよ」と声は告げた。
私は思った。
このまま全て消え去ってしまうなら、もう術はないだろう、と。
道路でざわめき出す悲鳴合唱を、私は10秒、涙目になって視界が霞んでいた。
私は正直この現実を疑ってもいた。
どうして私と同じ声が、私を助け出そうとするのか。
どうして突然地球が終了することを言ったのか。
でも、誰がどうやってもこの人類賛歌は終わることはない。
だから、疑ってもこれを信じるしかなかった。
「駆け抜けろ。もう残り1分だ」
その言葉ももう聞こえないくらいに、私はただ無心で走った。
目指していた丘の向こうは、すぐ目の前にあった。
「……ここ、よね……」
息も絶え絶えたどり着いた、そこにあったのは。
壁。
空を映し出す、壁。
そして、
その向こうには白衣を着た科学者たちがいた。
彼らはパソコンを見ていて、私が来るのを待っていたのか、私が来てすぐに、「素晴らしい」と言って手を叩き始めた。
「……疑うよ」
私はまさか、と思って振り向いた。
そこから見える街の風景は鉄道模型にあるジオラマのような世界――まるで実験施設のようだった。
「いいですか?
もう使い物にはなりませんよ?」
「ああ。実験は成功だ」
私によく似た声を聞こえたような気もしたが、直ぐにそれを消し去るようなことが起きた。
「もう不必要だ。
実験は終了したからな」
そう言って科学者はパソコンを操作して、爆弾を街へ投げた。
私は思った。
箱の中にある、小さな世界で今までずっと生きてきたんだな、と。
燃え尽きていく街だったものをただ呆然と私は見つめていた。
そしてその耳元で、ヘッドフォンの向こうから、
「ごめんね」と声がした。
私はそれに答えるように、泣き叫んだ。
「……こんなの全然解らないよ!!」
科学者は実験に成功しただけでもう満足したのか、撤退の準備を進めていた。
ノイズ混じりの声で、ヘッドフォンは最後にこう言った。
「喋るだけの玩具はもう飽きたから」
二度と、ヘッドフォンから声が出ることはなかった。
End...
ヘッドフォンアクター【自己解釈】
二つ目の解釈小説。
カゲロウデイズをやるなら、ヘッドフォンアクターもやるべきだろう! としてやってみました。
本家様:http://www.nicovideo.jp/watch/sm16429826
参考にした楽曲「人造エネミー」:http://www.nicovideo.jp/watch/sm13628080
「カゲロウデイズ」:http://www.nicovideo.jp/watch/sm15751190
前回の解釈小説:http://piapro.jp/t/W9Ma
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