「あ、メイト。私もう大丈夫」
もう腰が抜けたのは治っただろう。
「えー。もういいの?まだおんぶされてたっていいんだぜー」
「いやいや・・・降ろしてよ」
「ぶー」
メイトは渋々私を降ろした。
「店大盛況じゃん!すげー」
確かに、教室にはたくさんの客で賑わっている。
「ほんとね」
「ほんとねじゃねーよ!お前も店手伝えよ!!強制参加のはずだぞ!?」
「うるせぇなぁ・・・いいじゃん。人手足りてるんだろ?」
「た、足りてるけど・・・」
何でだろう。二人の間に火花が散ってるような気がする・・・!
「ルカちゃん」
「な、何?」
メイトはにやりと笑った。
「店手伝うのめんどくさいんでしょ?」
「そ、そりゃ、まぁ・・・そうなっちゃうけど」
「俺と文化祭回るほうが楽しいってことでしょ?」
「え!?」
そ、そうなる!?
でも、確かに店を手伝うのは面倒くさい。
「店手伝うのは・・・面倒くさい」
「だよねー」
「わ!」
メイトは私をぐいっと抱き寄せる。
「レン、残念ながらルカちゃんは女装した女々しい男といるより男の中の男といるほうが楽しいってー」
「はぁ!?」
そんなこと、言ってないし!!
「んだよ、それ・・・」
「あー!巡音ルカ!!」
レンの言葉が遮られた。
どすどすと、背後から大きな足音が近づいてくる。
「っ!?」
私は息を呑んだ。
大きな体で肩までかかる長い髪を振り乱した生き物で、顔に似つかわしくない黒と白を基調とした古風なメイド服を着ている。
これは誰?というより、何!?
「へ、変態お化け!!」
「誰がじゃー!!」
よく見ると、風音カイトだった。
「お前、まさか午後もサボる気じゃねぇだろうなぁ!?交代時間にはちゃんと働けよ!!」
「え～・・・てか、何よその格好!」
どこから見ても変態にしか見えないし、見てると鳥肌がたつ。
「他の奴らも嫌でもやってんのに・・・」
風音カイトは私に手を伸ばす。
パシッ
風音カイトの手が掃われた。
「・・・汚い手で触ってんじゃねぇよ変態」
「あぁ!?」
メイトが掃ったのだった。
「別いいだろ、人手足りてんだから」
「だからって・・・」
「そういう問題じゃないでしょ」
教室の入り口に、執事のコスプレをした秋音メイコが立っていた。
後ろに初音ミク、鏡音リンもいる。
「巡音さん、あんた午前にお店出るはずだったでしょ?約束は守ってもらわなきゃ困るわ」
「そ、そうだよ!約束はちゃんと守らなきゃ、みんな迷惑してるんだからね!!」
「はぁ?」
こんなに人がいるのに、私一人だけが欠けたら困るのだろうか?
「どうせ私に注文聞いて欲しい客なんていないわよ。そっちで何とかなってるんでしょう?」
「だから、人手が足りてるとか足りてないとかそういう問題じゃないって言ってるじゃない」
「じゃあどういう問題よ?」
「約束は守れってことよ。あたしはあんたの人の迷惑も考えないところ、好きになれないわ」
「別に好いてもらわなくて結構よ」
「はぁ?」
「はいはいそこまでそこまで」
私と秋音メイコのネチネチした言い争いに見かねてか、メイトが腕を上下に振った。
中庭の方から、歌声が聞こえてきた。
「何かやってるの?すごい、盛り上がってるみたい・・・」
歌声に負けないくらい、黄色い声が上がっていた。
「誰かがライブみたいなことしてるんじゃない?行く?」
「うん」
「ちょ、店は!?」
私は風音カイトを無視してメイトと中庭へ向かった。
「見えない・・・」
前に客が多すぎて、歌っている人がよく見えない。
「もうちょっと前に出よっか」
前に出ると、はっきりと見えた。
前髪を結んだチアリーダーの服を着た女子と、制服を着た男子・・・
「マナとクオじゃない!ここで歌ってたんだ」
彼女のマナが歌っているというのに、隣のメイトは何の反応もない。
「ねぇ、あんたも歌ってくれば・・・」
メイトの顔を見て、目を見張る。
メイトは切なげな顔をして、目からは今にも涙が零れ落ちそうだった。
私は何も言えず、ただメイトの横顔を見ていた。