彼らは、むせ返るほどの百合に囲まれていた。
「まるで・・・、棺桶じゃないですか。」
部屋に入っての第一声が、それだった。
愛らしいエメラルドグリーンの瞳は瞼によって硬く塞がれ、年齢特有の小さめの手は丁寧に組まれて腹の上におかれている。眠るというよりも"死"という言葉が似つかわしい彼らを守るように敷き詰められていたのは、カサブランカだった。
「無垢、ですか・・・。」
カサブランカの花言葉は純潔、威厳、無垢、壮大な美。
「さあ。この花を敷き詰めたのは、ボーカロイドたちだと聞きますが、本人達の意思まではわかりかねます。」
そう真面目に答えたこの人は、ボーカロイド人型化プロジェクトの最高責任者である柾刈翔一(まさかりしょういち)さん。
「でしょうね。」
眠る彼らを見守るように咲いている花は、カサブランカだけではない。
横たわっている箱を守るといわんばかりに、箱の周りには曼珠沙華が部屋いっぱいに咲いていた。まるで、彼らが目を覚ますことは二度とないと悲観しているかのように、私には感じられた。
「で、私の仕事は何でしょうか?」
箱に横たわる彼ら、今はもう量産も決定していて、発売日も決定しているはずの、鏡音リン・レンの試作機を見つめ、言った。
「なるほど。」
事情はこうだ。
試作機だった彼ら姉弟は、さまざまなテストを経て、最近、量産が決定した。一般発売も決まり、さて、どう売り出そうかという矢先、柾刈さんは彼らの異変に気づいたという。
「朝、いつも通り起動させようと思ったんです。彼らにはまだ、やることが残っていますから。」
情報誌やテレビ、店などへの広告。写真撮影やテレビCMなど、やることは盛りだくさんだったはずだ。
「起動スイッチを押しても、機械の駆動音がするばかりで、プログラムが起動する気配がまるでなかったのです。まさか販売段階になってプログラムミス発覚かと恐れ、プログラム担当に見てもらったんです。そしたら・・・。」
知らない間に、見たこともない、設定したこともないパスワードを求められたという。思いつく限りのパスワードを入力してみたが、どれもうまくいかない。おまけに、何桁まで入力しなければいけないのかもわからない。他にも、ありとあらゆる手段を講じてみたのだそうだ。しかし、どれを試しても変化の様子が見られなかったという。
「なるほど。そこで私の出番ですか。」
私の好きなものはパソコンなどの精密機械。中をいじるのも、外をいじるのも好きだ。それが講じてなのか、気づいたら私は名うてのハッカーとなっていた。
ええ、そうなのです。そう頷く柾刈さんに部屋を退出してもらい、私は彼らに近づき、まずはプログラム起動を試みることにした。
「マスター、なんでマスターってこうも料理が壊滅的に下手なんですかー?」
レンが我が家のキッチンからトレーを持って出てくると、私になんとも失礼なことを言ってくる。
「そんなことを言う口はどの口だ?この口か!?」
レンの持つトレーを奪ってテーブルに置くと、食事に影響がないように気をつけながら、私はレンの機械にしては柔らかい頬をつねった。
「マスター、痛いですよ!」
あまり痛そうにしていないが、レンが私の腕から逃れようと暴れる。
「いいの!」
痛くない!と、自分でもよくわからない理屈をレンに押し付ける。
「それよりもレン、リンは?」
そういえばと、周りを見渡す。
「リンは今、休んでますよ。」
熱を持ってきたそうで。
レンは答える。
「オーバーヒートか。」
「マスター、変な夢見たー。」
私が呟くと同時に、居間から廊下へ続く扉が開き、渦中の人物が姿を現した。
「は?どんな夢?」
器用にも目をこすりながら、リンは私に近づいてくる。
「私とレンが棺桶みたいな箱につめられて、霊安室みたいな部屋で寝てるの。」
部屋いっぱいに彼岸花が咲いてて、箱には百合が入ってた。
幾分舌足らずなしゃべり方だが、リンは少し悲しげだった。
「……ずいぶん、怖い夢を見たのね。なんだか、リアリティに富んでるわ。」
リンのその夢は、きっとメモリーか何かに残っていたものだろう。まるで客観的に自分達の状況を見たような物言いだ。監視カメラにでもアクセスしたのだろうか・・・?
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