『Vocaloid』という歌声を得た
『基本プログラム』が、
自ら歌のデータを求める。

歌のデータを<欲しい>という
『それ』に、
神委が
ポータブルプレーヤーの曲を与える。

すると、
『基本プログラム』はそれを解析し
『Vocaloid』の声で歌う。

少し調子ハズレな歌を、
山羽根と咲祢がほめるが
神委がおかしい部分を指摘する。

すると。
中性的な『基本プログラム』の『顔』が
少し首を傾げて…
より上手に調整した歌を歌う。

終業時間になり、
システムを終了する頃には
『基本プログラム』は
かなりうまく歌える様になっていた。

「神委、咲祢、山羽根、
『基本プログラム』の相手、
ご苦労だったな。」
紫苑室長が3人をねぎらう。

「俺は明日、そいつから取った
コピーの解析をするから、
明日もそいつの相手を頼む」

翌日。
いつものように出勤した山羽根は、
ロッカーで着替え、
布製バッグを持って部屋に向かう。

その、プログラム開発3部の部屋への廊下にある
チェックゲートをくぐろうとした時、アラームが鳴り、
そこに居た守衛に止められた。

山羽根はバッグからポータブルプレイヤーを
取り出して守衛に見せた。

「すみません、仕事用に持って来ていて忘れていました。」
守衛はそれを簡単に調べてから返してくれた。

「おはようございます。」
席につくと神委が声をかけて来た。
「いまのアラームは山羽根さん?」
「これ、チェックゲートで見せるのを忘れてて」

「ああ、山羽根さんも持って来たんだ。
今日は咲祢さんも持って来てたよ。」
と、持ち込んだポータブルプレイヤーを見せる。

朝から山羽根のデスクで
『基本プログラム』が歌を歌う。

山羽根達が持ち込んだポータブルプレイヤー。
そこに入っているいろいろな曲を
『それ』に歌わせていた。

そちらに時々目を向けながら、
紫苑室長はデスクで
自分のノートパソコンで
プログラムの解析を続けている。

昼近くになって、
紫苑室長は山羽根達を呼んだ。

「…大体分かった。
『歌いたい』という<欲望>が、
自発的な行動の元になったらしい。」

紫苑室長が続ける。
「んで、歌ってヒトに褒められれば嬉しい、
つまり報酬系によって『歌う』と『楽しい』が
関連づけされて強化される。
それが次の行動に連鎖していくわけだ。」

そう言って無意識に
胃の辺りを撫でて続ける。
「ニンゲンってやつは、
無垢なプログラムに
欲望のリンゴを与える悪魔って訳だな。」

そして午後。
山羽根がヘッドセットをつけて
デスクに座る。

設定画面を出して
名前の欄に
『KAITO』と打込む。

「カイト、でよろしいですか?」
「ええ。あなたの名前よ。」
『基本プログラム』の問いに山羽根が答える。

「あれ、名前設定したんだ?」
隣から神委が覗き込む。

それに山羽根が答える。
「『KAITO』はあの音声ソフトの名前だけど、
それでいいかなって。

だからキャラクターも
それに合わせてみようと思うの。」

そして画面に向き直る。
「KAITO、インターフェイスの
キャラクターグラフィックの
設定画面出して。」

画面にウインドウが開き、
いつも見ている特徴の無い
中性的な人の姿が映し出される。

「髪の色と瞳の色は濃いめの青に。」
グラフィックの髪と瞳に色が乗る。

「ジェンダーはやや男性寄り、
+5か6かな?」
時々まばたきしながら画面が変化する。

「あの…いいですか?」
そのとき背後から
咲祢がおずおずと声をかける。

「年齢設定は子供のほうが
かわいいと思うんですけど…」

その言葉を聞いたとたん
グラフィックが4~5歳くらいの
子供に変化した。

おもわず「あっ」と声を上げたものの、
「…まあ、子供でもいいかも。」
山羽根が言った。

「でも声と合わないだろう」
神委が言う。

すると子供らしい声が響いた。
「音声のメイン周波数を
年齢設定に合わせました。」

「…ちゃっかりしてんな。」
神委がぼそっとつぶやいた。

次の日。
打ち合わせで、それまで終業時に
プログラムを終了させていたのを、
終了させずに動かし続けてみることになった。

しかし翌朝になると、
どんなに話しかけても
反応しなくなってしまった。

反応しなくなったプログラムを削除し、
保存してあったデータを再配布する。

しかし一晩放置すると
反応しなくなってしまうのだ。

プログラムに異常はなく、
ただ外界からの入力に反応しなくなり
時には記憶データのループを繰り返す。

その状態は、
<自己閉鎖ループ>
と名付けられた。

翌日も、その次の日も。
報告を聞いた紫苑室長は
大きくため息をついた。

「またか。
何でどいつもこいつも一晩で
<自己閉鎖ループ>なんだ?」

少しでも解決のヒントが得られれば、
そういう思いから山羽根達は

プログラムをいじったり、
音楽を流し続けたり、
ランダムにエラーを入れたり、

さまざまな方法を試みたが
結果は同じだった。

そして十数回目の打ち合わせ…
思いつく手は
もう試し尽くしてしまった感があった。

「思いつくことが無いんなら、
また全プログラムを削除して、
セーブデータにランダムエラーを入れて
全部のパソコンに配り直す。」

壁際の全てのパソコンも使って、
それを繰り返す日々が続いた。

17時30分になると
ヒトはみんないなくなる。
ヤマハネさんも、サキネさんも、
カムイさんも、シオンシツチョーも。

それまで感じた事のない
『感情プログラム』が動いた。

これはカナシイ?
それともサビシイ?

そうだ、歌をうたおう。

はじめて歌ったときみたいに、
またミンナ来て、
ほめてくれるとイイな。

ホメラレルの、うれしい。
笑ってくれるの、うれしい。

「こーとりーはとーってーも
うーたがー好きー、
かぁーさんよーぶのーも
うーたでー呼ぶー。
ぴぴぴぴぴ、ちちちちち、
ぴっちくーりぴっ♪」

小さな子供の声が繰り返す。

誰もこない…さびしい…
誰もコない…さびシい…
ダレもコなイ…サビシイ…
サビシイ…
サビシイ…

起動されたままのパソコンの中で、
一つ、また一つ。
歌声は途切れていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

始まりの音2

こちらは以前某動画サイトに投稿した文字読み動画のストーリーです。
(動画2話目はこちらhttp://www.nicovideo.jp/watch/sm6088244

動画見る時間がない方はこちらをどうぞ。

舞台は今よりほんの少し先?の未来。
勝手な設定がてんこもりに出て来ます。

動画と違って会話を色分けしていないので分かりづらいかもしれません。

閲覧数:92

投稿日:2009/06/14 10:11:49

文字数:2,602文字

カテゴリ:小説

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